『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日発行

読めば読むほど感動した。2回目に読んだときは、途中からずっと泣きっぱなしだった。(今野敏)

馬主とその家族の波瀾の20年を描く比類なき傑作!
お前に一つだけ伝えておく。絶対俺を裏切るな - 。父を亡くし、空虚な心を持て余した税理士の栗須英治はビギナーズラックで当てた馬券を縁に、人材派遣会社 「ロイヤルヒューマン」 のワンマン社長・山王耕造の秘書として働くことに。競馬に熱中し、〈ロイヤル〉 の名を冠した馬の勝利を求める山王と共に有馬記念を目指し・・・・・・・。馬主一家の波瀾に満ちた20年間を描く長編。第33回山本周五郎賞受賞作。(新潮文庫)

波乱に満ちた展開は刺激的で面白く、再三、胸が熱くなります。登場する人物が皆 「誠実」 で、どんな世界の話であったとしても、人は人なんだと。地道な努力の果てに、先へと繋がる夢に、大きな希望を見た気がします。

- さて 『ザ・ロイヤルファミリー』 だが、実は三回読んだ。これには事情がある。第33回山本周五郎賞の候補作となり、選考委員だった私はしかるべき時期に読んだ。
選考会に向けて準備万端と思っていると、コロナ禍だ。春に実施されるはずだった選考会が秋に延期になった。四ヵ月先にずれた。

四ヵ月も経てば、いくら何でも内容を忘れてしまう。もちろん印象に残った部分は忘れないが、細かなところがすっぽ抜けてしまったりする。
そこで、もう一度読まなくてはならなくなったのだ。

候補作の五作品すべてを二度読んだ。その結果、二度目でも面白さが変わらなかったのは 『ザ・ロイヤルファミリー』 だけだったのだ。
いや、むしろ二度目のほうが感動し、興奮した。作品のハイライトとなる競走の結果はわかっている。それでも読んでいると血が熱くなった。迷うことなく、受賞作に推した。

そして、今回この解説を書くためにもう一度読むことにしたのだ。三度目でもこの作品が色あせることはなかった。読むたびに新たな感動がある。

私は競馬とは縁がない。競馬場に出かけたことも馬券を買ったこともほとんどない。だから自分とは無縁な物語と思って読みはじめた。だが、そんなことは関係なかった。

「扱う材料は何であろと、俺は人間を書いているのだ」
そう語る早見の声が聞こえてきそうだった。どんな世界でも面白いものにしてみせる。俺は人間を見つめているからだ。そういう早見の自信を感じた。
読めばたちまちロイヤルホープとロイヤルファミリーという馬のファンになってしまう。(今野敏/解説より)

※ワクワク、ハラハラ、時にイライラもすることでしょう。先を読みたくて、夜更かしするかもしれません。600ページを超える長編ですが、大丈夫。思う以上にするすると読めてしまいます。そういえば帯にありました、

ずるいほどのリーダビリティ!
かろやかに、重厚に、疾走する小説!
最後の10ページ、圧巻でした。
ブレイディみかこ

- と。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆早見 和真
1977年神奈川県横浜市生まれ。
國學院大學文学部中退。

作品 「ひゃくはち」「スリーピング・ブッダ」「イノセント・デイズ」「東京ドーン」「6 シックス」「ぼくたちの家族」「店長がバカすぎて」他多数

関連記事

『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『そして、バトンは渡された』瀬尾 まいこ 文春文庫 2020年9月10日第1刷 そして、バト

記事を読む

『さよなら、田中さん』(鈴木るりか)_書評という名の読書感想文

『さよなら、田中さん』鈴木 るりか 小学館 2017年10月17日初版 さよなら、田中さん

記事を読む

『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その2

『ブラックライダー』(その2)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 ブラックライダー

記事を読む

『地面師たち』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『地面師たち』新庄 耕 集英社文庫 2022年2月14日第2刷 そこに土地が

記事を読む

『監殺』(古野まほろ)_書評という名の読書感想文

『監殺』古野 まほろ 角川文庫 2021年2月25日第1刷 唯一無二 異色の警察ドラ

記事を読む

『慈雨』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『慈雨』柚月 裕子 集英社文庫 2019年4月25日第1刷 慈雨 (集英社文庫) 警察

記事を読む

『御不浄バトル』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『御不浄バトル』羽田 圭介 集英社文庫 2015年10月25日第一刷 御不浄バトル (集英社文

記事を読む

『遮光』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『遮光』中村 文則 新潮文庫 2011年1月1日発行 遮光 (新潮文庫)  

記事を読む

『笑う山崎』(花村萬月)_書評という名の読書感想文

『笑う山崎』花村 萬月 祥伝社 1994年3月15日第一刷 笑う山崎 (ノン・ポシェット) 「山崎

記事を読む

『死にたくなったら電話して』(李龍徳/イ・ヨンドク)_書評という名の読書感想文

『死にたくなったら電話して』李龍徳(イ・ヨンドク) 河出書房新社 2014年11月30日初版

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版

『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文

『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日

『うどん陣営の受難』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『うどん陣営の受難』津村 記久子 U - NEXT 2023年8月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑