『ふたり狂い』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『ふたり狂い』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(は行), 真梨幸子

『ふたり狂い』真梨 幸子 早川書房 2011年11月15日発行

『殺人鬼フジコの衝動』を手始めに、『女ともだち』『あの女』『孤虫症』と続けて4冊読みました。噂に違わぬエログロと後味の悪さに加え、各作品ごとの、周到に準備された筋書きがみごとで、一々驚いたり感心したりしていたのです。

そして、この『ふたり狂い』 - いきなり【エロトマニア】なんて章から始まります。これはもう間違いなく面白い、面白くない訳がない。・・・そう思って、読み始めたのです。
他の人だって、きっとそうだと思います。

女性誌「フレンジー」の人気連載小説「あなたの愛へ」。その同姓同名の主人公が自分だと思い込んだ川上孝一は、思い余って著者の榛名ミサキを刺してしまう。それに端を発して起こる、デパ地下惣菜売り場での異物混入事件、ネットでの企業中傷事件、そして郊外マンションでの連続殺人 - だが、その背後には謎の女マイコの存在があった・・・。現代人のささやかな狂気と、連鎖する因縁の果てに明かされる驚愕すべき真実とは? 「殺人鬼フジコの衝動」の著者が仕掛ける、もうひとつの罠。(「BOOK」データベースより)

しかし、どうにもこれまでとは調子が違うのです。上手く言えないのですが、話の〈大枠〉みたいなものを、自分が分かって読んでいるのか、分からないままスルーしているだけなのか、そもそもが分からなくなってきて、ストレスばかりが溜まってくるのです。

たぶん、これに尽きるのですが、やたらと多い登場人物とその人物たちがいくつもの章を跨いで出たり入ったりするせいで、頭の整理が追いつかないのです。それこそ相関図でも作らないことには、途中で訳が分からなくなります。要するに、ややこしすぎるのです。

この小説では、主要な登場人物の誰が正気で、誰が狂っているのか、それが最後まで分からない仕掛けになっています。そして、おそらくそうすることが真梨幸子の一番の企みだと思います。だからこそ、それ以外の事はなるだけシンプルに書いてほしかった。

軽い気持ちで読み始めた私が理解できないだけなら良いのですが、唖然としたのは、書評家の大矢博子サンの解説です。こんなことが書いてあります。

この『ふたり狂い』は、ドロドロのイヤ汁小説を読み慣れた読者をも唸らせる作品であると同時に、これから真梨幸子を読むというビギナーにうってつけの入門書でもあるのだ。

オイオイ! それはあまりに無責任な。「ビギナーにうってつけの入門書」って、あなた、どこをどう読んだらそんなトンチンカンなことが言えるのですか? おかしい。どう好意的に考えても、そんな訳ないのです。

真梨幸子の小説を堪能したければ、この小説は、むしろ後回しにすべき作品です。失礼を承知で言えば、読まなくてもいい。読めばストレスが溜まるだけ。もう少し、あともう少し読めば面白くなるはずだと信じて読んで、結局最後まで半端な気分が晴れることはありません。

こんなのを最初に読まされた〈ビギナー〉は、もう二度と真梨幸子の小説に手を出さなくなることだってあるかも知れません。余計なことに惑わされず話に没頭して、一心不乱に読み耽る。まずは、それこそが、この手の小説の最大の魅力だろうと思います。

ですから、不幸にしてこの小説を読んだ〈ビギナー〉のみなさんに対して、私は大矢博子サンとは真逆のことを伝えたいと思います。

みなさん、真梨幸子の小説はこんなややこしくて分かりづらい小説ではありません。他の作品はとても分かりやすくて読みやすく、その上とっても気色の悪い小説なのです。

この本を読んでみてください係数 70/100


◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。

作品 「孤虫症」「えんじ色心中」「殺人鬼フジコの衝動」「深く深く、砂に埋めて」「女ともだち」「あの女」「人生相談」「お引っ越し」他多数

◇ブログランキング

いつも応援クリックありがとうございます。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『葦の浮船 新装版』(松本清張)_書評という名の読書感想文

『葦の浮船 新装版』松本 清張 角川文庫 2021年6月25日改版初版発行 期待して

記事を読む

『屑の結晶』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『屑の結晶』まさき としか 光文社文庫 2022年10月20日初版第1刷発行 最後

記事を読む

『地下街の雨』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『地下街の雨』宮部 みゆき 集英社文庫 2018年6月6日第55刷 同僚との挙式が直前で破談になり

記事を読む

『1973年のピンボール』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『1973年のピンボール』村上 春樹 講談社 1980年6月20日初版 デビュー作『風の歌を聴け

記事を読む

『ピンザの島』(ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『ピンザの島』ドリアン 助川 ポプラ文庫 2016年6月5日第一刷 アルバイトで南の島を訪れた

記事を読む

『リバース』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『リバース』湊 かなえ 講談社文庫 2017年3月15日第一刷 深瀬和久は平凡なサラリーマン。自宅

記事を読む

『ビニール傘』(岸政彦)_書評という名の読書感想文

『ビニール傘』岸 政彦 新潮社 2017年1月30日発行 共鳴する街の声 - 。絶望と向き合い、そ

記事を読む

『村上龍映画小説集』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『村上龍映画小説集』村上 龍 講談社 1995年6月30日第一刷 この小説は『69 sixt

記事を読む

『パトロネ』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『パトロネ』藤野 可織 集英社文庫 2013年10月25日第一刷 同じ大学に入学した妹と同居す

記事を読む

『箱庭図書館』(乙一)_書評という名の読書感想文

『箱庭図書館』乙一 集英社文庫 2013年11月25日第一刷 僕が小説を書くようになったのには、心

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

『水たまりで息をする』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『水たまりで息をする』高瀬 隼子 集英社文庫 2024年5月30日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑