『占/URA』(木内昇)_書評という名の読書感想文

『占/URA』木内 昇 新潮文庫 2023年3月1日発行

占いは信じないと思っていた。

知りたいのはあの人の気持ち。視えたのは私の執心。不安にもがき、逞しく生きる女性たちを描く七つの短編。

翻訳家の桐子は大工の伊助と深い仲。ただ彼は、生き別れた義妹が一番大事という。ならば私は何だと桐子は憤り、偶然行き着いた卜い家で彼の本心を探る (「時追町の卜い家」)。お宅は平穏ねと羨まれる政子。果たしてそうか、近所の家庭を勝手に格付けし、比べ始める。それが噂になってしまい・・・・・・・(「深山町の双六堂」)。”占い” に照らされた己の可能性を信じ、逞しく生きる女性たちを描く短編集。(新潮文庫)

[目次]
時追町の卜い家
山伏村の千里眼
頓田町の聞奇館
深山町の双六堂
宵待祠の喰い師
鷺行町の朝生屋
北聖町の読心術

人の本心を知りたい、心の内を覗いてみたいと思う気持ちは切実で、それがひいては、自分の存在や自分が今いる状況が、人と比べて多少なりとも “優位” であるとか、”人並み” には暮らせているだとか、そんなことの確証を得たいばかりにする 「占い」 に通じているのでしょう。

たとえそれが訊いた自分にとって都合の良い答えだと薄々勘付いていたとしても、それが何だというのでしょう。その答えこそを、あなたは (私は) 期待していたのではないのでしょうか? でなければ、(日ごろ見向きもしない) 占いなんかには頼らないはずです。

ここに登場する女性たちは、悩むべくして悩みます。悩んだあげく 「占い」 にどっぷり嵌まり、その “罠” から中々抜け出すことが出来ません。気付かぬ内に、いつの間にか深間に嵌まり、占い方の言うことの一々が、至極真っ当に思えてくるのでした。

たとえばこんな “お告げ” が -

可能性を見出して、お伝えするということです。そこでなにをどう信じるか、どういう手立てをとるかは、お客様次第ということになります。そうして選んだ行いの先に、ただひとつの真実が待っているということです。(「時追町の卜い家」 より)

どうです? よく読むと、何の占いにもなっていない “お告げ” ではありますが、藁をもすがる思いでいる者には、これで十分なわけです。卜い家を訪ね来た者にしてみれば、これこそが “答え” で、自分の背中を押してくれさえすれば、それで来た甲斐はあったというものです。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆木内 昇
1967年東京都生まれ。
中央大学文学部哲学科心理学専攻卒業。

作品 「茗荷谷の猫」「笑い三年、泣き三月」「光炎の人」「漂砂のうたう」「櫛挽道守」他多数

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