『ふたりの距離の概算』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『ふたりの距離の概算』米澤 穂信 角川文庫 2012年6月25日初版


ふたりの距離の概算 (角川文庫)

 

春を迎え高校2年生となった奉太郎たちの〈古典部〉に新入生・大日向友子が仮入部する。千反田えるたちともすぐに馴染んだ大日向だが、ある日、謎の言葉を残し、入部はしないと告げる。教室での千反田との会話が原因のようだが、奉太郎は納得できない。あいつは他人を傷つけるような性格ではない-。奉太郎は、入部締め切り日に開催されたマラソン大会を走りながら、心変わりの真相を推理する! 〈古典部〉シリーズ第5弾! (「BOOK」データベースより)

この〈古典部〉シリーズには、当然と言えば当然なのですが、例えて言うと〈アク〉みたいなものが一切ありません。舞台は学校で、事件を起こすのが高校生なら解決するのも高校生。その純朴さ故に、登場人物と同じ世代の若者に絶大な人気があるわけです。

評判を呼んだ『満願』が評判以上に面白くて、次にちょっと長かったのですが『折れた竜骨』を頑張って読んでみたら、これがまたよくできた話です。これはちょっと集中的に米澤穂信を読まねばと思って、次に買ったのが『氷菓』という小説です。

『満願』『折れた竜骨』『氷菓』と並べてみるとよく分かるのですが、面白いのは同じでも、扱っている題材がまったく違うことに気付きます。米澤穂信という作家の間口の広さというか、多彩な目のつけどころに只々感心するほかありません。

中でも一番信頼できるのは、何と言っても物語の構成力です。張り巡らされた伏線はきっちり拾われ、最後まで破綻なく物語が終わるという安心感と、それとは別に、ラストには読み手の想像をはるかに超えた結末が必ず用意されているのが何よりの魅力です。
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『氷菓』も面白い小説でした。面白かったのですが、これがいわゆる〈古典部〉シリーズの第一弾だということをしっかり認識したのは、買った後のことでした。そして、またもやよく確かめもせずに買ったのが、この『ふたりの距離の概算』です。

だから言わんこっちゃない。『氷菓』を読んだときに、確かに私はこう思ったのです。「面白い。確かに面白いけれど、これはやっぱり若者向きで、私のような〈十分大人な人間〉には少々刺激がなさ過ぎて物足りない」・・・それをすっかり忘れていました。

そもそもこのシリーズに大人の世界の生臭さや、悍ましい狂気などといったものを期待する方がどうかしているのです。それが好みなら、最初からそういうミステリーを読めという話です。
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というわけで、正直に白状すると、この本は随分と前に買ってはいたのですが、読む気にならずに長い間留め置いていた本です。

内容は紹介の通り、学校の行事であるマラソン大会に出た奉太郎君が、走りながらある出来事についての謎に迫るという筋立てです。各章ごとに走った距離と残りの距離が表示され、それが奉太郎君の推理の進捗とリンクするような仕掛けが施してあります。

もちろん最も重要な〈距離〉とは、人と人の間にあるべき適正な関係性です。単なる謎の解明に終わるのではなく、真実を知ることで、高校生たちは級友等と自分との関係について、その正しい距離についての〈概算〉を改めて考えることになります。

私がズルズルと読まずにいた間にも、巷ではこの本の感想をよく見かけたものです。まるで恋愛小説のように粋なタイトルの効果もあってか、若い人たちからは多くの支持が集まっているのが分かります。

言っておきますが、私はこの本を貶しているわけではないのです。中学生や高校生諸君、どうか誤解しないでください。ただ〈十分大人な人間〉であるオジサンの私には、少々不向きですねと言いたいだけなのです。

君たちにとっては、大いなるバイブルになり得る本だと思います。長い夏休みですから、是非ともこのシリーズの読破にチャレンジしてみてください。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


ふたりの距離の概算 (角川文庫)

◆米澤 穂信
1978年岐阜県生まれ。
金沢大学文学部卒業。

作品「折れた竜骨」「心あたりのある者は」「氷菓」「インシテミル」「追想五断章」「満願」他多数

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