『青色讃歌』(丹下健太)_書評という名の読書感想文

『青色讃歌』丹下 健太 河出書房新社 2007年11月30日初版


青色讃歌

 

第44回文藝賞受賞作。同棲する彼女の収入で暮らす高橋の、猫探しと仕事探しの日々はいつ終わる? 明け方の青い光に彷徨う青春小説。「読ませる、笑わせる、唸らせる」藤沢周氏、「全篇に漂う乾いたユーモア」高橋源一郎氏、他選考委員絶賛! (amazon解説より)

今から8年前に刊行された本なのですが、はたして丹下健太という作家を知っている人がどれくらいいるのかと思うと、いささか心細くもあります。この『青色讃歌』を読んだことがあるという人が少しでもいたらいいな - そんな思いで書いています。

この小説は文藝賞を受賞した丹下健太のデビュー作なのですが、その後の彼の著作はそう多くはありません。失礼ながら、「大丈夫なの?」と声をかけたくなるほどの少なさで、まるでこの小説の主人公・高橋のように頼りなさげで、心もとなくもあるのです。

私がこの本を紹介しようと思った理由はとても単純で、小説の舞台が京都で、高橋や丹下健太と私が、おそらく似たような学生時代を送った者同士じゃないかと感じた点です。とても他人事とは思えない、私にはひどく近しい小説なのです。

小説の中に具体的な地名などが出てくるわけではありませんが、私には分かるのです。丹下健太が同志社の学生だったことや、卒業した後も彼が京都を離れずにいることがとりあえずの根拠ですが、何より細かな描写が京都であることを物語っているのです。
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話は脇道へ逸れますが、みなさんは全国で学校(大学かな?)施設が一番多い都道府県がどこかご存じですか? それは東京でも神奈川でも、大阪でもなく、京都なのです。理由はよく分かりませんが、とにかく京都にはやたらと学校があるのです。

私が暮らしている地域からも、早ければ中学校から、大概は大学で京都へ行くことになります。大学へ行くなら京都か大阪、それ以外は東京(関東)というパターンです。

関西の方なら言わずもがなですが、「関関同立」と言われる、いわゆる関西有名私立大学というのがありまして、関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学の4つの大学を指してそう呼びます。前の2つが大阪と兵庫、後の2つが京都にある学校です。

京都大学、大阪大学、神戸大学といった名だたる国立大学を始めとする公立の大学も沢山ありますので、どこまで「有名」で、どこまでが「優秀」かは判断の別れるところでしょうが、ともかくも4つの大学のどこかに潜り込んでさえおけば、世間的には「勉強ができる」人だと思ってもらえるわけです。

嘘か真か、私の友人(丹下健太と同じ同志社大学に入学した奴)のゼミには、京都大学に僅か2点届かず不合格だった(と言う)奴がいたりしました。(今更ですが、そんなのどうして正確に分かるのかしら?)

そうかと思えば、ほとんど大学にも行かずにアルバイトに精を出す奴、誰かの下宿に入り浸って麻雀ばかりしている連中、一廉の政治家気取りでアジに全精力を注いでいるような奴らなど、まるで学生の本分(それがどんなものかは別にして)をどこかに置き忘れてしまったような輩が大勢いたのです。
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そうなんです。28歳になって就職活動をしているフリーターの高橋のような人間が、京都にはそれこそ山盛りいたのです。そしてまた、そんな男の話を独り黙々と書いている丹下健太のような人間も。

なんでそう言えるかって? 最初に書きましたでしょ。私もそっちの側にいた一人だったのです。私にしてみれば、高橋は結構立派な奴ですよ。頼りなくはあるけれど、曲がりなりにもめぐみという女性と暮らしていて、ついでに猫まで探し出してあげるのですから。

そもそもあんな猫を飼っていたわけではなかったのです。2ヶ月程前に開いていた窓から勝手に入ってきて居ついた野良猫で、めぐみが喜んだので餌を買い与えていたのですが、一週間程するとまたどこかへ行ってしまいそれっきり戻ってこなかったのです。

ただそれだけの猫だったのです。高橋にとってはどうでもよかったのですが、めぐみがどうしてもあの猫を飼いたいから探してきてというので、高橋はしぶしぶ探すことにしただけのことだったのです。

高橋は何度も会社訪問を繰り返し、その合間を縫って猫の行方を探しています。これはこれでかなり絶望的な状況なのですが、それでもどこかに希望がありそうで、何かが始まる予感を孕んでいます。それが高橋の生来の「呑気さ」に起因するものなのか、単なる「カラ元気」なのかは分からないのですが・・・。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


青色讃歌

◆丹下 健太
1978年愛媛県生まれ。
同志社大学法学部卒業。京都在住。

作品「マイルド生活スーパーライト」「仮り住まい」「猫の目犬の鼻」他

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