『FLY,DADDY,FLY』(金城一紀)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『FLY,DADDY,FLY』(金城一紀), 作家別(か行), 書評(は行), 金城一紀
『FLY,DADDY,FLY』金城 一紀 講談社 2003年1月31日第一刷
知ってる人は知っている。あの『レヴォリューションNO.3』で華麗なデビューをはたした伝説的(これは勝手に私がそう言ってるだけ)オチコボレ高校生集団 -〈ザ・ゾンビーズ〉が再び登場する痛快青春小説です。
ご存じない方のために、〈ザ・ゾンビーズ〉とはそもそもいかなる連中なのか - 集団のリーダー・南方の言葉を借りるとこうなります。
「僕たちは試験問題を解くのが苦手なだけなのに、オチコボレって呼ばれてます。僕たちがどんな人間なのかっていうのは関係ないんですね。手っ取り早くテストをして、結果から分類して、レッテルを貼って、分かりやすいように一箇所に集めて、管理しようとする」
「僕たちは、僕たちが何をできるのか、どんな人間なのか、見せてやりたいんですよ。僕たちを管理しようとしている奴らとか、将来、僕たちを管理しようする奴らに」
彼らは、決して頭の悪い連中ではありません。と言うか、並みの高校生では考えも及ばない〈高い志〉で結ばれたグループなのです。但し、それがために彼らが企てる行動の一々が常識外れ、時には犯罪すれすれで、教師や学校を大いに慌てさせることになります。
例えば、彼らは今、試験休みにもかかわらず「特別登校組」として学校へ呼び出されています。生徒の誰かが、成績を管理している学校のホストコンピューターに侵入して、全生徒の期末試験の成績をすべて百点に書き換えた - そんな事件の犯人ではないかと疑われて、取調べを受けているのです。
そして、それは彼らが実際にしでかした〈仕業〉なのです。他には、憧れの有名女子高の学園祭へ何としてももぐり込もうという誠に高校生らしい企みもあるにはあるのですが、彼らが単に粗暴で、数に頼って弱い者いじめをするようなグループではないことがお分かりいただけると思います。
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今回の主人公・鈴木一(はじめ)は、大手家電メーカーの子会社で部長を務めるサラリーマン。学生時代に知り合った妻と、17歳になる一人娘が唯一自慢の、平凡な中年男です。ある日、そんな鈴木のもとに、娘の遥が何者かに殴られ入院したという報せが入ります。
遥を殴った相手は、石原という高校生。学校帰りに街で偶然声をかけられて、2人はカラオケへ行くのですが、そこで些細な理由で諍いになり、思わず石原が手を上げてしまった - そんな顛末を聞くにつけ、鈴木はどうしても事の経緯に納得が出来ません。
これは後から判ることですが、石原はボクシングの高校生チャンピオンとして有名な生徒で、学校では品行方正で通っています。おまけに両親は2人して芸能人。学校側はスキャンダルを恐れ、穏便に事を済ませようとして、鈴木には真実を曲げて伝えていたのです。
遥は間違ってもどこの馬の骨とも分からない男の誘いに乗って、ホイホイあとをついて行くような娘ではない - 心では固くそう信じている鈴木ですが、娘の前ではその思いを上手く伝えることが出来ません。誰よりも味方であることを伝えるべきなのに、鈴木は何も話せず、同じ場所に立ったまま、動けずにいます。
- と、そこへ登場するのが〈ザ・ゾンビーズ〉の面々です。復讐を決意した鈴木は、包丁を手に石原の通う高校へ乗り込むのですが、彼はそこで大きな勘違いをしていたことに気付きます。(ここからが本番です。これ以降は、ぜひ本編にてお愉しみください)
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さて、〈ザ・ゾンビーズ〉の中で今回最も活躍するのが、朴舜臣(パクスンシン)という、滅法ケンカに強い高校生です。朴舜臣は在日朝鮮人で、腕力だけではなく、揺るぎのない信念と計り知れない精神力とを兼ね備えたスーパー高校生です。
南方らの作戦は、まず鈴木を鍛え上げることから始まります。鈴木を舜臣に預け、47歳の中年男を一から鍛え直して、石原と対等に戦える人間に再生させること - 鈴木をスーパーマンに変身させ、鈴木が石原を倒して娘のヒーローになる。そのために、彼らはひと夏を費やします。
結果は読んでからのお愉しみということにして、私が最も好きなのが、舜臣が舞う〈鷹の舞い〉です。それは少々舜臣流にアレンジされた、元々はモンゴル相撲で勝った者だけに許される踊りで、勝者としての矜持を高らかに、そしてしめやかに誇示する歓喜の舞いです。最後に、舜臣が実際に舞うシーンをご紹介しましょう。
両腕を水平より少しだけ高く上げていったん静止したあと、次の瞬間には、少しだけ膝を屈め、まるで羽ばたくように両腕を砂浜に向かって振り下ろした。足もとの砂が巻き上がるような力強さを醸し出す動きだった。
再び羽が肩のあたりまで上がる。しかし、羽は振り下ろされず、朴舜臣は羽を広げたまま、バレエのターンのようにグルリとまわった。羽の先が、完璧な円の軌跡を夕暮れに描いた。軌跡が消えないうちに、朴舜臣は膝を伸ばして軽く爪先立ちになり、顎を上げて空を仰いだ。羽がさらに高く上がる。
何度読んでも面白い。分かっているのにやっぱり面白くて、そしてちょっと泣けてくる。私にとっては宝物のような一冊です。
この本を読んでみてください係数 90/100
◆金城 一紀
1968年埼玉県川口市生まれ。
慶應義塾大学法学部卒業。
作品 「GO」「対話編」「映画編」「レヴォリューションNO.3」「SPEED」「レヴォリューションNO.0」など
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