『うつくしい人』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『うつくしい人』(西加奈子), 作家別(な行), 書評(あ行), 西加奈子
『うつくしい人』西 加奈子 幻冬舎文庫 2011年8月5日初版
他人の目を気にして、びくびくと生きている百合は、単純なミスがきっかけで会社をやめてしまう。発作的に旅立った離島のホテルで出会ったのはノーデリカシーなバーテン坂崎とドイツ人マティアス。ある夜、三人はホテルの図書室で写真を探すことに。片っ端から本をめくるうち、百合は自分の縮んだ心がゆっくりとほどけていくのを感じていた-。(「BOOK」データベースより)
ここ数ヶ月この人の本を間断なく読んでいます。『サラバ!』で直木賞を受賞した時に初めて西加奈子という人を知ってからのことで、受賞作をいきなり読むのもどうかと思い、とりあえずは彼女の〈人となり〉を知ろうと、他の本から読み始めました。
最初に手に取ったのが『円卓』という小説。何ほどの期待もなく読み始めたのですが、これが滅茶苦茶面白い。もちろんガハハと笑えるという意味ではなく、話に惹き込まれてしまうということ。面白くて、感動的で、時間が経つのを忘れてしまいます。
小さな女の子の話なのですが、その子の悪気のなさや周りの子どもたちの健気さ、彼らを取り巻く大人たちのほのぼのとした善意に胸が詰まって、思わず泣きそうになります。なんていい話を書く人なんだろう - それが私の、西加奈子に対する最初の印象です。
・・・・・・・・・・
それからもう10冊は読んだと思います。直木賞をとるくらいの人ですから、当然ながらどの作品も相応に面白い小説で、飽きることがありません。西加奈子が、ストーリーテラーとして天賦の才能を持っていることは誰もが認めるところです。
この『うつくしい人』という小説も、ストーリーの出来不出来で言うなら、他の作品と何ら遜色のないものだと思います。ただ、彼女には珍しく話がややまどろっこしく感じたのですが、それはたぶん、私が男だからなのかも知れません。
特に主人公の百合 - 32歳で独身。自分に自信がなくて、単純なミスをした自分にいたたまれなくなって、辞めなくてもいい会社を発作的に辞めて旅に出る - のような「不器用な生き方」しか出来ないでいる女性の読者には大いに共感できる小説なのでしょう。
そう言えば、私がかつて勤めていた職場にも百合によく似た女性がいました。職場の異動で初めて彼女と出会ったときからどこか雰囲気が違っていたのですが、しばらくの間、それが何によるものなのかが私にはよく分かりませんでした。
しかし、段々と日が過ぎると「ああ、そういうことか」というのが分かってきたのです。彼女はとてもプライドが高い女性で、その分垣根が高く、不用意に話しかけたりするとさくっとあしらわれてしまいそうな気配があって、気安く声がかけられない人だったのです。
同僚の女性たちからは一目置かれ(言葉はきれいですが、要は適当に避けられていたということ)、先輩や上司はわが身の安全を考えてひたすら逃げの一手です。彼女に対して自分の弱みを曝け出して助けを乞うような真似は、決して出来なかったのです。
この辺りは百合とは真逆ですが、分かってもらいたいのは、百合も、かつて私の部下だった女性も、なんて「生きづらい」人であることか、ということです。
大変失礼な言い方をしますが、良くも悪くも、彼女らは何かしら自分を特別扱いしているように思えます。まさに自意識が過剰に過ぎるということ。周りの人は誰もそんな風に思ってなどいないのに、自分の殻を作って、そこから出ようとはしないのです。
他人の目が気になる、他人と比較して自分がどう評価されているかがとても気になって思うように動けない - そんな人は山ほどいるでしょうが、そう思う自分とどう折り合いをつけ、如何にすればその呪縛から抜け出して自由になれるのか・・・
見知らぬ離島のホテルに一人来て、百合は一生懸命考え、悩みます。その結果、彼女が如何なる境地にたどり着くかは本編に委ねたいと思いますが、それにつけても、女心という代物はかくもややこしく、かくも〈七面倒臭い〉ものなのでしょうか。
よくよく考えるに、そうは言っても百合はもう32歳です。32歳と言えば、立派な大人じゃないですか。
きちっと分別がつく年齢であるにもかかわらず、発作的に仕事を辞めてしまう、いや、「辞めてしまえる」のは、実家が裕福でたちまちの生活に困窮することが無いからだと言われてもしょうがないと思うのですが・・・、これもやはり、私が男であるが故の見立てなのでしょうか。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆西 加奈子
1977年イラン、テヘラン生まれ。エジプト、大阪府堺市育ち。
関西大学法学部卒業。
作品 「あおい」「さくら」「きいろいゾウ」「窓の魚」「円卓」「漁港の肉子ちゃん」「きりこについて」「通天閣」「炎上する君」「白いしるし」「ふくわらい」「サラバ!」他
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