『離れ折紙』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『離れ折紙』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(は行), 黒川博行

『離れ折紙』黒川 博行 文春文庫 2015年11月10日第一刷

コン・ゲームの名手による異色の骨董ミステリーが6編。いずれの作品も短編にはもったいないくらいの読み応えがあり、初めて聞く話ばかりで飽きることがありません。

「コン・ゲーム」とはcon game =(confidence game の略)、相手を信用させて詐欺をはたらくこと。策略により騙したり騙されたり、ゲームのように話が二転三転するミステリーのことを言います。

舞台は関西。今回はテッパンの大阪ではなく、京都を中心に物語が進んで行きます。(これがとても嬉しい。私の地元で、知ってるところがいっぱい出てくるのです)そういえば、黒川博行は京都にある芸大の卒業生です。詳しくないわけがないのです。
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「洛鷹美術館」は、京都嵐山の堂ノ前町にあります。オーナーは伏見の緋鷹酒造の七代目ですが、美術品にはほとんど興味がなく、運営は館長である河嶋に任せっきりにしています。その河嶋に誘われて働いているのが澤井で、彼は非常勤のキュレーターをしています。

話の主役になったり、ならなかったり。時にはまったく姿を見せないこともあるのですが、どこかしらで話が繋がっています。澤井が事の発端になる話が三話、あとの三話は2人がちょこっと顔を出したり、「洛鷹美術館」だけが登場したりします。

ちょっと面白いのは、河嶋と澤井の関係です。実は2人は同居人なのです。下京区高辻西洞院にある河嶋所有の分譲マンションで、2人は一緒に暮らしています。彼らは言うまでもなく立派な大人の男同士。他人には内緒ですが、河嶋と澤井はそういう関係なのです。

であるからどうこう、ということではありません。「箸休め」のように合間に出てくるだけで、話とはまるで関係ない男と男の話です。かかる経費はすべて河嶋持ち、世間の目を考えて、河嶋の名刺は洛鷹美術館、澤井のそれにはマンションと携帯番号が刷ってあります。

さて、肝心の中身の話。但し、最初に書きましたように、この本にある6編のどれもが「騙し、騙され」、さらに「騙し返してなんぼ」みたいな話ばかりで、丁寧に書こうとするととても紙面が足りません。なので、断片のみということでご勘弁願います。

第一話「唐獅子硝子」 一乗寺にある畠中家の未亡人の依頼で、澤井は遺品の整理をすることになります。お礼に貰ったのが、アールヌーヴォー期のガラスレリーフ。澤井は、それでひと儲けしようと策を練ります。
第二話「離れ折紙」 伊地知は刀剣収集が趣味の医者です。ある日のこと、刀を担保に金を貸してほしいと、同じ骨董仲間でパチンコ屋の徳山が頼み込んできたのですが・・・。
第三話「雨後の筍」 写楽と並ぶという絵師の上方浮世絵の版木を持ち込んできたのは、古美術商の坪内でした。澤井は、坪内のことを胡散臭い男だと思っています。
第四話「不二万丈」 売った贋作がバレて返金を求められるのが、〈ふろしき画商〉の矢口。矢口は儲け損ねた分を取り戻そうと、浅川美術館の「不二」三連作に目をつけます。
第五話「老松ぼっくり」 大阪の骨董通りに店を構える立石には、素性不明の、しかし持ち込むものは逸品ばかりの仕入れ先があります。東京から大きな話を持って馴染みの蒲池がやって来たのは、珍しく霙まじりの雨が降った2月のことです。
第六話「紫金末」 古賀と澤井は大学時代の同級生です。古賀は突然洛鷹美術館に来て、ある女性の画商から絵を買って欲しいと澤井に頼みます。古賀は根っからの女好き。きっと美人だろうと澤井は思います。灯影舎画廊 冬木塔子 - まるで雅号のような名前です。
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解らない言葉だらけですが、不思議と苦になりません。読むうちに、何とはなしに業界独自の言い回しにも慣れ、まるで知らない世界を知ることの面白さ - 古美術界の奥深さや骨董売買に絡む丁々発止のやり取りなどが存分に味わえて、少し得した気にもなります。

とくに面白かったのは、第四話の「不二万丈」という話。珍しくこの話には疫病神シリーズや大阪府警シリーズではお馴染みの、いわゆる極道系のおっさんが登場しては、矢口を責め立てたりします。その始まりだけで、もう面白いのです。

一応探偵とは名乗っていますが、白井というこの男は、服装、物腰、目付き、口調でまともな人種ではないと、すぐに見当がつくような人物です。その白井が矢口のところへやって来て、あんたが売った高嶋龍一郎の『南京市街』の絵は偽物だと言います。

贋作である確かな証拠を示し、白井は、ついては400万円を買い主に返せと迫ります。矢口が受け取ったのは380万。差額の20万は白井自身が受け取る探偵料だと言います。矢口はあくまで「真作」と信じて売ったと言い張るのですが、動かぬ証拠を握られていてはもはやどうすることも出来ません。

てな調子で話は進んで行くのですが、白井が白井なら、矢口も矢口なのです。白井の恐喝めいた話を泣く泣く呑んだ矢口が次に考えたのは、性懲りもなく、また贋作作りなのです。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。

作品 「二度のお別れ」「左手首」「雨に殺せば」「ドアの向こうに」「絵が殺した」「疫病神」「国境」「悪果」「文福茶釜」「煙霞」「暗礁」「螻蛄」「破門」「後妻業」「勁草」他多数

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