『不思議の国の男子』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『不思議の国の男子』(羽田圭介), 作家別(は行), 書評(は行), 羽田圭介

『不思議の国の男子』羽田 圭介 河出文庫 2011年4月20日初版

年上の彼女を追いかけて、おれは恋の穴に落っこちた・・・男子校に通う高1の遠藤は、女子高に通う高3の彼女と、年下であることを隠してつきあっている。二人の、SMならぬSSというおかしな関係の行方は? 恋もギターもSEXも、ぜーんぶ〈エアー〉な男子の〈純愛〉を描く、各紙絶賛の青春小説! (「BOOK」データベースより)

単行本として刊行されたときのタイトルが『不思議の国のペニス』- さすがに「ペニス」はないだろう・・・という議論があったかどうかは分かりませんが、文庫になって『不思議の国の男子』と改題されています。

それにつけても羽田圭介という人物は、尋常であるのかないのか、折々に物議を醸す人であるらしい。

この本を読む前に読んだのが『メタモルフォシス』という小説で、これは真性の変態男による、真に変態な話です。時代の大きな社会問題として「老人介護」の話を書いて芥川賞を受賞したかと思いきや、その前にはまるで違う世界を描いています。

それがいかにも赤裸々で、過剰で、「コイツは一体何者なんだろう・・・」などと、失礼なことを思ったりもします。相応の年齢ならまだしも、年端もいかぬ(!?)青年の心の中に一体何が渦巻いているのだろうと、心底不思議に感じたりしています。

この小説においても、主人公の遠藤(私立の男子校に通う高校1年生)とナオミ(遠藤とは別の高校の3年生)がデート代わりにしているのはSMプレイならぬ「SS」プレイです。ことの是非は別として、羽田圭介は余程〈変態プレイ〉に興味があるようです。

『メタモルフォシス』の切迫感や臨場感には遠く及びませんが、それでも2人はそれなりの衣装を纏い、牛革製の鞭(ナオミが命令して遠藤がアダルトショップで買ったもの)などという小道具をホテルに持ち込んでは、互いを罵り、時に暴力に及んで事を成し遂げようとします。

しかし、彼らがしているのはあくまで戯れ事です。「SSプレイ」はどこまでもプレイのままで、2人が取り組む(!?)姿勢はどこか子供がしている学芸会にも思え、まるで色気がありません。

では、2人が成し遂げようとしているのは何なのか - といえば、これが不器用極まりないのですが、他でもないリアルなSEXです。

遠藤からするとそれはさらに直截的で、要は「挿入」するかしないか、できるかできないかだけが問題なのです。実はナオミの方も、かなりの温度差があるのですが、遠藤と結ばれることを望んでいます。2人は間際にいるのですが、結局は成し遂げないまま危うい遊戯を続けています。

2人は何ら特別ではない、ごく普通の高校生です。遠藤はひたすら「包茎」を気に病む童貞で、ナオミはまるでそうは見えないのですが、棄てる勇気が持てない、純情可憐な処女なのです。

※ あとは、男子校で交わされる、思春期の始めにありがちな、幼くも卑猥に満ちた会話のオンパレードです。それらを含めて、(文庫の帯にあるような)「童貞文学の金字塔」であるかどうかは、読者のみなさんのご判断に委ねたいと思います。

この本を読んでみてください係数 85/100


◆羽田 圭介
1985年東京都生まれ。
明治大学商学部卒業。

作品 「黒冷水」「走ル」「メタモルフォシス」「盗まれた顔」「スクラップ・アンド・ビルド」「ミート・ザ・ビート」他

関連記事

『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』(日向奈くらら)_書評という名の読書感想文

『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。』日向奈 くらら 角川ホラー文庫 2017年11月25

記事を読む

『緋色の稜線』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『緋色の稜線』あさの あつこ 角川文庫 2020年11月25日初版 ※本書は、201

記事を読む

『薄情』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『薄情』絲山 秋子 河出文庫 2018年7月20日初版 地方都市に暮らす宇田川静生は、他者への深入

記事を読む

『八月六日上々天氣』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『八月六日上々天氣』長野 まゆみ 河出文庫 2011年7月10日初版 昭和20年8月6日、広島は雲

記事を読む

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行

記事を読む

『僕が殺した人と僕を殺した人』(東山彰良)_書評という名の読書感想文

『僕が殺した人と僕を殺した人』東山 彰良 文藝春秋 2017年5月10日第一刷 第69回 読売文

記事を読む

『ハレルヤ』(保坂和志)_書評という名の読書感想文

『ハレルヤ』保坂 和志 新潮文庫 2022年5月1日発行 この猫は神さまが連れてき

記事を読む

『成功者K』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『成功者K』羽田 圭介 河出文庫 2022年4月20日初版 『人は誰しも、成功者に

記事を読む

『D R Y』(原田ひ香)_書評という名の読書感想文

『D R Y』原田 ひ香 光文社文庫 2022年12月20日初版第1刷発行 お金が

記事を読む

『ブエノスアイレス午前零時』(藤沢周)_書評という名の読書感想文

『ブエノスアイレス午前零時』藤沢 周 河出書房新社 1998年8月1日初版 第119回芥川賞受賞

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

『水たまりで息をする』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『水たまりで息をする』高瀬 隼子 集英社文庫 2024年5月30日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑