『夜に啼く鳥は』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『夜に啼く鳥は』千早 茜 角川文庫 2019年5月25日初版

夜に啼く鳥は (角川文庫)

辛く哀しい記憶と共に続く永遠の命。

いつしか、小さきものたちがひっそりとこの身に宿っていた。闇で瞬くその緑色の光を美夜子は視ることができなかった。美夜子は人間だったから。

わたしは違う。けれど、違うということがわかるだけで、未だに自分がなにものであるかわからない。男でも、女でも、人でもない。わからぬまま生かされている。
自らを示す名はひとつ。
御先という、一族の長に与えられる名のみだ。
(P44)

千早茜が描く妖しくも切ない、愛と命の物語。

不老不死の一族に生まれ、その長となった御先 (みさき) は、性別を持たず、他人にない治癒能力を持ち、老いることがありません。少女のような外見のまま、150年以上の時を過ごしています。

男でも、女でも、人でもない。永遠の命を与えられ、しかし何ものであるかもわからぬまま生かされている身の御先は、やがて、自らに問うことになります。

わたしは誰かを愛せるのか」 - と。

奇譚と言うには余りに辛く切ない物語。彼女のデビュー作 『魚神』 を読み、涙した方ならきっとわかるはずです。人とは違う “化け物” の話でありながら、ここには、 “人が生きる” ということの 「本質」 が描き出されています。

かつて、これほど美しくて哀しい “化け物” がいただろうか --

古来、傷みや成長を食べる 「蟲 (むし)」 を体内に宿す不老不死の一族があった。その一族は地図にのらない里で、長い間、人目をはばかって暮らしていた。里の岬には、八百比丘尼とも言われる “シラ” という一族の祖を祀っていた。その末裔のなかでも強大な力を得た御先 (みさき) は、どんな傷も病も治す能力を持ち、150年以上生きているとは思えぬ10代のままのような美しさで、ふたなりの身体を持ち、性別はもはや定かでない存在として畏れられてきた。今では、時の権力者の施術を生業として暮らしている御先だったが、付き人だった玄孫 (やしゃご) の雅親 (まさちか) をつき離し、一族の里を離れ、夜の店で働いていた傍系の四 (よん) と行動をともにするようになり、ある “事件” に巻き込まれることになり・・・・・・・。主人公たちの過去と今が交錯し、時代を超えて現れる愛しい人・・・・・・・。不老不死の一族の末裔が現代の都会に紛れ込む - 妖しくも美しく、そして哀しい現代奇譚。泉鏡花文学賞受賞作家が挑む新境地。(webサイト KADOKAWAより)

目次
・シラ
・はばたき
・梟 (ふくろう)
・ひとだま
・かみさま
・躑躅 (つつじ) *(単行本)書き下ろし

この本を読んでみてください係数  85/100

夜に啼く鳥は (角川文庫)

◆千早 茜
1979年北海道江別市生まれ。
立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業。

作品 「魚神(いおがみ)」「おとぎのかけら/新釈西洋童話集」「からまる」「森の家」「桜の首飾り」「あとかた」「眠りの庭」「男ともだち」他

関連記事

『ようこそ、わが家へ』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文

『ようこそ、わが家へ』池井戸 潤 小学館文庫 2013年7月10日初版 ようこそ、わが家へ (

記事を読む

『つけびの村』(高橋ユキ)_最近話題の一冊NO.1

『つけびの村』高橋 ユキ 晶文社 2019年10月30日4刷 つけびの村  噂が5人を殺した

記事を読む

『優しくって少しばか』(原田宗典)_書評という名の読書感想文

『優しくって少しばか』原田 宗典 1986年9月10日第一刷 優しくって少しばか (集英社文庫)

記事を読む

『仮面病棟』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『仮面病棟』知念 実希人 実業之日本社文庫 2014年12月15日初版 仮面病棟 (実業之日本

記事を読む

『ユートピア』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『ユートピア』湊 かなえ 集英社文庫 2018年6月30日第一刷 ユートピア (集英社文庫)

記事を読む

『ユリゴコロ』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『ユリゴコロ』沼田 まほかる 双葉文庫 2014年1月12日第一刷 ユリゴコロ (双葉文庫)

記事を読む

『徴産制 (ちょうさんせい)』(田中兆子)_書評という名の読書感想文

『徴産制 (ちょうさんせい)』田中 兆子 新潮文庫 2021年12月1日発行 徴産制 (新潮

記事を読む

『廃墟の白墨』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『廃墟の白墨』遠田 潤子 光文社文庫 2022年3月20日初版 今夜 「王国」 に男

記事を読む

『二十歳の原点』(高野悦子)_書評という名の読書感想文

『二十歳の原点』高野 悦子 新潮文庫 1979年5月25日発行 二十歳の原点 (新潮文庫)

記事を読む

『指の骨』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文

『指の骨』高橋 弘希 新潮文庫 2017年8月1日発行 指の骨 (新潮文庫) 太平洋戦争中、

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『ポラリスが降り注ぐ夜』(李琴峰)_書評という名の読書感想文

『ポラリスが降り注ぐ夜』李 琴峰 ちくま文庫 2022年6月10日第

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『カインの傲慢/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2022年6月2

『カゲロボ』(木皿泉)_書評という名の読書感想文

『カゲロボ』木皿 泉 新潮文庫 2022年6月1日発行

『あたしたち、海へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あたしたち、海へ』井上 荒野 新潮文庫 2022年6月1日発行

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑