『金曜のバカ』(越谷オサム)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/12
『金曜のバカ』(越谷オサム), 作家別(か行), 書評(か行), 越谷オサム
『金曜のバカ』越谷 オサム 角川文庫 2012年11月25日初版
天然女子高生と気弱なストーカーが繰り返す、週に一度の奇天烈な逢瀬の行き着く先は - ? (「金曜のバカ」)「また、星が降る夜に逢えたらいいね」- 流星雨の夜に出会った少女が残した言葉が、今胸によみがえる。(「星とミルクティー」)不器用だけど一途な思いを抱えた〈バカ〉たちが繰り広げる、愛と青春の日々。何かを好きになった時のときめきと胸の高鳴りに満ちた、ほっこりキュートな傑作短編集。(角川文庫より)
「金曜のバカ」「星とミルクティー」「この町」「僕の愉しみ 彼女のたしなみ」「ゴンとナナ」- と、まるで作風の異なる5つの作品からなる短編集です。
第一話「金曜のバカ」を読み出した時には、「えっ!? こんな軽い調子のバカ話ばかりかよ! 」と思わず読むのをやめてしまおうかと。しかし(何だか悔しくもあるのですが)読むうち段々とよくできた話だというのがわかり、結局いつの間にやら読み終えていました。
ただ、だからといって全面的に気を許したのかと言うとそういうことではありません。第二話以降を読み進めていくにつれ、最初感じた印象とは違い結構シリアスな話であったりもします。
登場するのはいずれも思春期真っ只中の若者らで、中身は至極真っ当な青春小説、その時代にありがちな錯覚や思い過ごし、気持ちばかりが先走りしてロクなことにならないあれやこれやについて激しく後悔するような話であるわけですが、
その思いを、いわば最大級の「バカさ」加減でもって描いているのが「金曜のバカ」と言えます。
・・・・・・・・・
カナは入学してまだ間もないピカピカの女子高生、本人が言うには「変質者にとっては最高級ブランド」の女子で、自転車通学で通る人通りの少ない道についても、母親からは危ないから遠回りしなさいなどと言われたりしています。
しかし、東京ならいざ知らず、カナがいるのは町で一番立派な建物が国道沿いにあるパチンコ屋というレベルの「スゲー」田舎で、人よりイタチを見かける回数の方がまだ多い田舎道にあって、犯罪者に出くわす確率などというのは格段に低いんじゃないかと思っています。
道路沿いには「たまー」に農家がある以外は、ほとんどが畑。一ヵ所、小さな笹薮の脇を通る以外は景色に変化がありません。その笹薮に差し掛かったあたりで、その日は珍しく一人の人間と遭遇します。
二十歳そこそこで、全体にひょろっとしており、なで肩。青いチェックのシャツ。「気が弱いオタク」という感じの若者が、私(カナ)の脚 - というか正確にいうならスカートの中 - を何だかびっくりしたような目で見て行き過ぎます。
振り返るとそいつは、立ち漕ぎしながらもの凄い勢いで遠ざかって行きます。カナは思います。「なに? そのラッキーって反応・・・」「だいたいスカートの下にショートパンツ穿いてるんだから、そんな必死に覗き込んだって下着なんかぜったい見え - 」
「ボウシェッ! 」- カナから思わずネイティブばりの悪態が口をついて出てしまいます。日頃あれだけ気を付けているのに、今日に限ってショートパンツを穿き忘れています。というか、穿いてないのを忘れていたのです。
考え事をしていたからけっこう脚も開いていたはず、「たぶん、モロ見られた」とカナは思います。しかも、3枚1,000円の安パンツ。いやいや、最高級のシルクショーツだろうが、幼稚園児のおぱんつだろうが、絶対見られたくないことに変わりはありません。
と、ここまでが「カナ目線」による導入部です。対して、次にあるのがオタク風に見られた「青年目線」での語りで、
彼は、僥倖にも(!?)自分好みの女子高生 - それも下着が丸見えの - とまったく人気のないはずの、普段は通ることのない未舗装の細道で出会うなどということは、偶然にしてはできすぎているんじゃないかという思いに至ります。
僕はきっと、何かに導かれてあの時間あの場所に向かったのだろう - 事実はそうではないかもしれないけれど - 全くもってその通りで、カナは通りすがりのオタク風の男にパンツを見られたことに大いに気分を害しています - そう考えたい。これは運命なんだと。
さて、このあと二人は一体どうなってゆくのか。どんなことが二人の間でなされ、互いの気持ちがどんな風に変化をするのかしないのか。その行程こそが「バカさ」満開で、満開であるが故に、ちょっと羨ましくも、悔しくもあるわけです。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆越谷 オサム
1971年東京都足立区生まれ。
学習院大学経済学部中退。
作品 「ボーナス・トラック」「階段途中のビッグ・ノイズ」「陽だまりの彼女」「空色メモリ」「せきれい荘のタマル」「いとみち」他
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