『黒牢城』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『黒牢城』(米澤穂信), 作家別(や行), 書評(か行), 米澤穂信
『黒牢城』米澤 穂信 角川文庫 2024年6月25日 初版発行
4大ミステリランキングすべて第1位 ミステリ史に輝く金字塔

第166回直木賞受賞作
本能寺の変より四年前。織田信長に叛旗を翻し有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起こる難事件に翻弄されていた。このままでは城が落ちる。兵や民草の心に巣食う疑念を晴らすため、村重は土牢に捕らえた知将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めるが - 。事件の裏には何が潜むのか。乱世を生きる果てに救いはあるか。城という巨大な密室で起きた四つの事件に対峙する、村重と官兵衛、二人の探偵の壮絶な推理戦が歴史を動かす。(角川文庫)
文庫が出るのを今か今かと待ちわびていました。噂通りの傑作で、ただただ没頭して読みました。「時代小説は苦手で・・・・」 などと言わないでください。そのあなたのイメージは、おそらく一掃されることでしょう。こんなに読みやすい時代小説は、他にありません。中で注目すべきは、何といっても黒田官兵衛。計り知れない知力と迫力に、必ずや圧倒されるに違いありません。
天正6年、織田信長に謀反した荒木村重を翻意させるため、黒田官兵衛が織田方の使者として有岡城を訪れた。しかし村重は官兵衛を拘束、一年間にわたって土牢に幽閉する - 。
有名なエピソードだが、米澤穂信の手にかかればこれが魅力的なミステリの舞台に変貌する。籠城長引く有岡城内で起きた事件を、牢の中の黒田官兵衛が解き明かすのだ。この発想には唸った。そんなの、面白いに決まってるじゃないか。
処分保留の人質が密室で殺された謎や、名のわからぬ首級の中から大将首を探す話など、冬春夏秋に起きた四つの架空の事件が語られる。村重自ら現場を検分し関係者の証言を集める。そして迷った挙句に、知恵者と名高い黒田官兵衛に頼るのだ。官兵衛は話を聞いただけで真相を見抜くが、村重には謎かけのような言葉を告げるだけで - 。
捕らえた者と捕らえられた者がまるで刑事と探偵のような関係になるのが興味深い。個々の謎解きも論理性と驚きに満ちて、ミステリの醍醐味たっぷりだ。
ただし本書で最も注目すべきは、なぜ村重と官兵衛なのか、なぜ有岡城なのかという点にある。
読者は、村重が家臣たちを残して有岡城を脱出するという史実を知っている。そう村重に決意させたものは何だったのか。それこそが本書の核たる謎だ。四つの事件はその史実に至る布石なのだと気づいたときにはため息が出た。籠城の中で戦況も人心も変わる。村重が何を考え、何に追い詰められていたのかが、事件を通して浮き彫りになる。
そこに官兵衛を絡ませることで著者は、領主とは何か、民とは何か、ひいては戦国時代とは何かを見事に描き出した。読み進めるうちに、だから官兵衛なのかと膝を打った。村重の有岡城脱出の驚くべき絵解きであり、戦国時代でなければ描けない人間ドラマだ。
米澤穂信初の戦国ミステリは斬新にして骨太。著者の里程標たる一冊である。(大矢博子/朝日新聞掲載:2021年07月24日全文)
※単行本が出てから三年、待った甲斐がありました。昔、どうしても 『満願』 が読みたかったあの頃を思い出します。
この本を読んでみてください係数 90/100

◆米澤 穂信 1978年岐阜県生まれ。金沢大学文学部卒業。
作品「折れた竜骨」「心あたりのある者は」「氷菓」「インシテミル」「追想五断章」「ふたりの距離の概算」「満願」「王とサーカス」「本と鍵の季節」「Iの悲劇」「儚い羊たちの祝宴」他多数
関連記事
-
-
『この世にたやすい仕事はない』(津村記久子)_書評という名の読書感想文
『この世にたやすい仕事はない』津村 記久子 新潮文庫 2018年12月1日発行 「
-
-
『神さまショッピング』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『神さまショッピング』角田 光代 新潮社 2025年9月25日 発行 幸せになりたい。ゆるし
-
-
『ゴースト』(中島京子)_書評という名の読書感想文
『ゴースト』中島 京子 朝日文庫 2020年11月30日第1刷 風格のある原宿の洋
-
-
『君のいない町が白く染まる』(安倍雄太郎)_書評という名の読書感想文
『君のいない町が白く染まる』安倍 雄太郎 小学館文庫 2018年2月27日初版 3月23日、僕は高
-
-
『ノースライト』(横山秀夫)_書評という名の読書感想文
『ノースライト』横山 秀夫 新潮社 2019年2月28日発行 一家はどこへ消えたの
-
-
『ブラック・ティー』(山本文緒)_書評という名の読書感想文
『ブラック・ティー』山本 文緒 角川文庫 2025年12月25日 改版初版発行 主人公たちを
-
-
『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』(山田詠美)_書評という名の読書感想文
『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』山田 詠美 幻冬舎文庫 1997年6月25日初版
-
-
『きみのためのバラ』(池澤夏樹)_書評という名の読書感想文
『きみのためのバラ』池澤 夏樹 新潮文庫 2010年9月1日発行 予約ミスで足止めされた空港の空白
-
-
『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文
『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行 怒濤である。出口のない
-
-
『教場』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
『教場』長岡 弘樹 小学館 2013年6月24日初版 この人の名前が広く知られるようになったのは
















