『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカワ文庫 2024年5月15日 54刷

人生で一度は読むべき永遠のベストセラー SNSで話題沸騰 1400万回インプレッション超え

32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を始める。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく・・・・・・・天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは? 全世界が涙した不朽の名作。著者追悼の訳者あとがきを付した新版 (ハヤカワ文庫)

先日本屋へ行ったとき、何気に目にし、ついでのように買った一冊でした。そうさせた何かに、あるいは誰かに、今は深く感謝せねばなりません。この本のことは、死ぬまで忘れないだろうと思います。人が人として生きる上で、往々にして見落としがちな、しかし当事者にとってはごくごく当たり前の、とても大事なことが書いてあります。

日本語版文庫への序文」 より (抜粋)

多くの手紙をよせてくれた日本の読者のなかにひとりの少女がいた。彼女は、自分がチャーリイ・ゴードンのような気がしますと書いてきた。なぜならこの少女も、担任の教師から、“頭が悪い“ とさげすまれ、そのために同級生の嘲笑をかい、ひどいいじめにあってきたのだという。

次に記すのはこの少女に宛てた私の返事の一部である。

私はあなたの手紙の美しさと思慮の深さに非常な感銘をおぼえたので、これはぜひともあなたにじきじきに返事を書かなければと思いました。したがって、自分があなたの言葉にどれほど深く心をうたれたか、それを冷静にお伝えできるまで、自分の気持ちの整理をしなければなりませんでした。あなたがいじめにじっと耐えてきたことを知って私の心は痛みました。

この小説に出てくるあの光景、皿を落として割ってしまった知的障害のある給仕を食堂 (ダイナー) の客たちがあざわらったとき、チャーリイが激昂したあの場面を思い出していただければ、私があのような残酷で無情なひとびとについてどう感じているか、おわかりいただけると思います。知能というものは、テストの点数だけではありません。

他人に対して思いやりをもつ能力がなければ、そんな知能など空しいものです。人間のこの特性を欠いているひとびとは、残忍な嘲笑と空威張りの仮面のかげに隠れるものです。

この小説に登場する何人かの人物に自分を重ねあわせることができるなら、あなたは、知能ばかりか、深い洞察力と感受性とをそなえています。私が実はチャーリイではないかというあなたの推測はきわめて鋭い。あなたの手紙は、あなたがすばらしい人間であることを如実に示している。あなたのような読者をもてた自分はなんとしあわせものかと思いました。どうかお元気で、そして自分を信じることを忘れないように。

※まさか著者本人から直接返事が来るなんて。手紙を書いた少女は、思いもしなかったことでしょう。少女の素直さ、そしてその勇気に、ダニエル・キイスは是が非でも返事を書こうとしたのでしょう。その思いやり、そして手紙の文章の暖かさに、著者の人柄が透けて見えるようです。

さあ、あなたはどうでしょう? 訳した小尾芙佐氏は 「あとがき」 に、「新しい読者の方たちに伝えたいのは、冒頭の主人公チャーリイのたどたどしい文章を、どうか一字一字たどっていってください、ということだ。そうすれば、いつしか見たこともない新しい世界が垣間見えてくるだろう。」 と述べています。

おそらく、今まで読んだことがない小説世界が、あなたを待っています。そして、読む前と読んだ後では、あなたはきっと “違うひと“ になっていることでしょう。アルジャーノンを、単に実験用の白ネズミとは、到底思えなくなっているはずです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆ダニエル・キイス
1927年ニューヨーク生まれ。ブルックリン・カレッジで心理学を学んだ後、雑誌編集などの仕事を経てハイスクールの英語教師となる。このころから小説を書きはじめ、1959年に発表した中篇 「アルジャーノンに花束を」 でヒューゴー賞を受賞。これを長篇化した本書がネビュラ賞を受賞し、世界的ベストセラーとなった。その後、オハイオ大学で英語学と創作を教えるかたわら執筆活動を続け、『五番目のサリー』 『24人のビリー・ミリガン』 (以上、早川書房刊)など話題作を次々と発表した。2014年6月没。享年86。

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