『ツミデミック』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/08/23
『ツミデミック』(一穂ミチ), 一穂ミチ, 作家別(あ行), 書評(た行)
『ツミデミック』一穂 ミチ 光文社 2024年7月25日 5刷発行
パンデミック ✕ “犯罪“ を鮮烈に描いた傑作集 第171回 直木賞受賞作
大学を中退し、夜の街で客引きのアルバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗は - 「違う羽の鳥」
調理師の職を失った恭一は、家に籠りがち。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣に住む老人からもらったという。翌日、恭一は得意の澄まし汁を作って老人宅を訪ねると - 「特別縁故者」
渦中の人間の有様を描き取った、心震える全6話。(光文社)
数年に及んだコロナ禍での生活で、私たちは何に気づかされ、何を学び取ったのか。先の見えなさゆえに、以前なら気にもかけないことが気になって、動揺したりはしなかったでしょうか。度重なる自粛や自宅待機のせいで、家族の様子が微妙に変化したりはしなかったでしょうか。まさか血迷ったりはしなかったでしょうが、終始冷静だったと胸を張って言えるでしょうか。
一穂さんは大阪府出身。2007年に 「雪よ林檎の香のごとく」 でデビューし、BL(ボーイズラブ) 作品を数多く執筆してきた。21年に初めて刊行した一般文芸の短編集 「スモールワールズ」 で吉川英治文学新人賞を受賞した。
今回の受賞作は、コロナ禍での犯罪をテーマにした短編小説集。調理師の職を失った男が、近所の金持ちの老人に近付き財産を得ようとする 「特別縁故者」 や、料理宅配サービスの配達員の男性にのめり込んでいく女性の姿を描いた 「ロマンス☆」 など、6編の短編が収録されている。
直木賞選考委員・三浦しをんさんの話
「令和元年の人生ゲーム」 と 「ツミデミック」 に多くの票が集まった。後者は、コロナ禍を小説の 「ネタ」 として扱っているというのでなく、深刻な状況下での登場人物の暮らしや感情が描写されている点が高く評価された。(毎日新聞より)
※話の合間合間に挟まれる軽めの “ツッコミ“ が絶妙で、暗く重い話がそうではなくなるのが秀逸で、これはもう 「天賦の才」 という他ありません。内容は深刻で病的であったとしても、すらすら、心地よく読めます。受賞に相応しい、最上級の作品だと思います。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆一穂 ミチ
1978年大阪府生まれ。
関西大学卒業。
作品 「雪よ林檎の香のごとく」「イエスかノーか半分か」「光のとこにいてね」「パラソルでパラシュート」「うたかたモザイク」「砂嵐に星屑」「スモールワールズ」など
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