『暗い越流』(若竹七海)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/12
『暗い越流』(若竹七海), 作家別(わ行), 書評(か行), 若竹七海
『暗い越流』若竹 七海 光文社文庫 2016年10月20日初版
5年前、通りかかった犬に吠えられ飼い主と口論になった末に逆上し車で暴走、死者5名、重軽傷者23名という事件を引き起こした最低の死刑囚・磯崎保にファンレターが届いた。その差出人・山本優子の素性を調べるよう依頼された「私」は、彼女が5年前の嵐の晩に失踪し、行方が知れないことをつきとめる。優子の家を訪ねた「私」は、山本家と磯崎家が目と鼻の先であることに気づいた。折しも超大型台風が迫っていた・・・・(「暗い越流」)。第66回日本推理作家協会〈短編部門〉受賞作「暗い越流」を収録。短編ミステリーの醍醐味と、著者らしいビターな読み味を堪能できる傑作!! (「BOOK」データベースより)
ミステリーが読みたくなって、どうせならあまり知らない人の方がいいかと思い買ってみました。立派な賞をとっているようなので、とりあえずは賞頼みで読んでみようと。
私はよくコレをやるのですが、言っちゃなんですが割と高い確率でハズレを引きます。特に〈短編〉がそうで、読む気を煽る帯の文章や褒め言葉ばかりの推薦文に、ついその気になって読んではみるのですが、大抵の場合そこまでのものとは思えないのです。
ひとつには、「期待し過ぎる」というのはあると思います。
「暗い越流」という受賞作もそうで、(少なくとも私には)他の人が言うほど面白いとは思えないし、〈ビター〉とも感じません。(大した期待もせずに)暇つぶしに読む分には文句はないのですが、期待を込めて読むと(残念ながら)「期待倒れ」と言わざるを得ません。
確かによく出来たストーリーだとは思います。なかなか思い付かない結末もそうですし、語り手の性別が曖昧なのも工夫があっていいと思います。巧みな伏線がいくつも施され、破綻なく完結しているのは如何にも鮮やかで、受賞に相応しい作品だとも思います。
では何が不足かといえば、語り手の「私」もそうなら、幾人もの人を殺した磯崎保もそうなのですが、登場する人物のそれぞれに、生きた人間の匂いがしません。他の読者はどうとあれ、私には感じられないのです。
現に今いる人としての存在感が希薄であるなら、端から〈ビター〉も何もないわけです。匂い立つような人物がいてこその〈ビター〉だと思うのですが、(そんな感じのする部分があるにはありますが)全体に渡ってそうかというと、まるでそうは思えません。お手本のような作品ではあるのでしょうが、何より湧き立つものがありません。
収められた5編の内「暗い越流」だけが読みたくて、それだけ読んで書いた好き勝手な感想です。どうかご容赦ください。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆若竹 七海
1963年東京都生まれ。
立教大学文学部史学科卒業。
作品 「ぼくのミステリな時」「心のなかの冷たい何か」「プレゼント」「ヴィラ・マグノリアの殺人」「悪いうさぎ」他多数
関連記事
-
『カゲロボ』(木皿泉)_書評という名の読書感想文
『カゲロボ』木皿 泉 新潮文庫 2022年6月1日発行 気づけば、涙。TVドラマ
-
『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ
-
『パッキパキ北京』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
『パッキパキ北京』綿矢 りさ 集英社 2023年12月10日 第1刷 味わい尽くしてやる、こ
-
『彼女が天使でなくなる日』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文
『彼女が天使でなくなる日』寺地 はるな ハルキ文庫 2023年3月18日第1刷発行
-
『くちびるに歌を』(中田永一)_書評という名の読書感想文
『くちびるに歌を』中田 永一 小学館文庫 2013年12月11日初版 中田永一が「乙一」の別
-
『暗いところで待ち合わせ』(乙一)_書評という名の読書感想文
『暗いところで待ち合わせ』 乙一 幻冬舎文庫 2002年4月25日初版 視力をなくし、独り静か
-
『カラフル』(森絵都)_書評という名の読書感想文
『カラフル』森 絵都 文春文庫 2007年9月10日第一刷 生前の罪により輪廻のサイクルから外され
-
『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文
『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場 集英社文庫 2024年8月30日 第1刷
-
『かわいそうだね?』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
『かわいそうだね?』 綿矢 りさ 文春文庫 2013年12月10日第一刷 あっという間で、綿矢り
-
『夢を与える』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
『夢を与える』綿矢 りさ 河出文庫 2012年10月20日初版 こんなシーンがあります。