『カミサマはそういない』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『カミサマはそういない』深緑 野分 集英社文庫 2024年6月25日 第1刷

ミステリからSFまで。著者史上最も黒い短編集

目を覚ますと、無人の遊園地にいた。僕をいじめた奴の死体まで転がっている。そこへ現れたのは、ナイフを持ったピエロ - 。これは夢、それとも死後の世界なのか? (「潮風吹いて、ゴンドラ揺れる」) 僕らは見張り塔から敵を撃つ。戦争が終わるまで。だが、下された命令には恐ろしい真実が潜んでいた (「見張り塔」)。ミステリー、ホラー、SF ・・・・・ さまざまな終末的世界の絶望と微かな光を描く異色の短編集。(集英社文庫)

伊藤が消えた
潮風吹いて、ゴンドラ揺れる

朔日晦日 (ついたちつごもり)
見張り塔
ストーカーVS盗撮魔
饑奇譚
(ききたん)
新しい音楽、海賊ラジオ

「伊藤が消えた」 「潮風吹いて、ゴンドラ揺れる」 「朔日晦日」 「見張り塔」 「ストーカーVS盗撮魔」 「饑奇譚」。収録順に読んでいって、主人公と共に過ちを繰り返し、自分の取るに足らなさを思い知るうちに、世界の終わりの終わり、底の底までたどりついた心地がする。

冒頭に引用したインタビューで言及のあった “イヤミス“ とは、読んだあと嫌な気持ちになるミステリーのこと。なぜ好き好んで嫌な気持ちになる小説を読むのかといえば、巧みに隠蔽された醜悪なものが表に引きずり出されるところに昏い悦びをおぼえるからだろう。ただ、その悦びは強烈だが一瞬のもので持続性はない。

深緑野分は人間の醜悪な部分を容赦なくさらけだしながも、一瞬の昏い悦びの向こう側へ行こうと試みている。たとえば小さな虫の描き方に、その志向があらわれていると思うのだ。「伊藤が消えた」 の蠅も、「饑奇譚」 のカメムシも、外が嵐だろうが空が見えない “底“ だろうが飛び立つ。

最後の 「新しい音楽、海賊ラジオ」 では、テントウムシが飛び立つ。五十年前の “災厄“ を経て、陸があらかた水没した世界の話。絶え間なく聞こえる波音によって、多くの人が居眠りをしている。新しい娯楽作品はほとんど作られず、音楽も年間六十曲しか配信されない。音楽が好きな少年ムイは、古い形式のラジオ受信機を持ち歩き、未知の曲を流しているという噂がある “海賊ラジオ“ の電波を流す。

・・・・・・・ 蠅やカメムシやテントウムシにとって飛ぶことが、詩人や作家の書くことにあたる。世界はいつでも滅びかけているし、カミサマはそういない。けれども、人間は考えて感じたことを形にせずにはいられない。(以下略/解説より)

※以前私が 『オーブランの少女』 を読んだあとの感想が、以下のようなものです。

「どこでどんなふうに育てば、こんな作家が “できる“ のか? 興味があって、“真似して“ 書いた? いやいや、そんなことだけではこんな話は書けません。人には言えない特別な、何か秘策があるに違いありません」

この本を読み、同じことをまた思いました。読んだあなたが、面白いと思うかどうかはわかりません。何だかややこしく、途中で投げ出してしまうかもしれません。反対に、中に “病みつき“ になる人がいたりして。・・・・・ 私にはわかりません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆深緑 野分
1983年神奈川県生まれ。
神奈川県立海老名高等学校卒業。

作品 2010年、「オーブランの少女」 が第7回ミステリーズ! 新人賞佳作に入選し、デビュー。他の作品に 『戦場のコックたち』 『分かれ道ノストラダムス』 『ベルリンは晴れているか』 がある。

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