『ブルース Red 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『ブルース Red 』桜木 紫乃 文春文庫 2024年8月10日 第1刷

守りたいモノがあるから いくらでもワルになれる北の街に生きるダークヒロイン誕生

父の死という重い十字架を背負った女・影山莉菜は釧路の街を裏社会から牛耳っていた。亡父である博人の血をひく青年を自らの後継者とするため、代議士への道を歩ませようとする。だが、かつてのやり方では街を支配できなくなり、後継ぎとなるはずの青年も・・・・・。裏切りに直面した彼女が、人生の最後に見た景色とは。(文春文庫)

(最初に言うのも何なのですが) この物語の主人公・影山莉菜には、残念ながら 『ブルース』 に登場する闇のヒーロー、影山博人ほどの迫力は感じられません。非情さ、冷徹さにおいて、明らかに差があります。出自が違い、時代が違うからなのでしょうか。それとも・・・・・・・

事々に、莉菜の心情が語られているせいかもしれません。影山博人という人物は多くを語りません。語らぬうちに、事を為します。

物語の冒頭から老いた代議士を接待する倒錯的で艶麗な描写で始まり、使えるものなら何でも使う莉菜の冷酷さと隠しようもない美しさ、それでいて決して一線を越えさせはしない強かさが強烈な印象を残す。

作者は 「守りたいものがあれば いくらでもワルになれる そんな女を書きました」 という。目的のためなら何だってやると腹を決めた女ってやつは、どうしてこんなにも魅力的なのだろう。臓物のひとつやふたつくれてやる、そんな風に啖呵を切るがごとくに生きる女の鮮やかさったらなくて、その手負いの熊のような気迫に、妖しく光る眼差しに、どうしたって憧れて仕方がない。(以下略)

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莉菜をはじめとした登場人物の魅力を引き立てるのがハードボイルドな文体だ。桜木紫乃の作品に通底する陰影の中にある人の本質をえぐり取るような筆致と乾いたリズム、研ぎ澄まされたセリフに漂う切実な情緒と昏い雰囲気は、まるで釧路の霧の中。ありありと情景が浮かぶ圧倒的な筆力とその哀愁溢れる世界観に惹かれ溺れるうちに、心はまだ行ったことのない道東へと誘われた。

想像の中の道東は、いつも鈍色の空が広がっている。桜木作品の中のその土地は骨に染みるような厳しい寒さによって生み出されたのであろう閉塞感にどっぷりと支配されていて、この最果ての地だからこそ、莉菜は、博人は、生まれたのかもしれないなあと感じた。

そう、莉菜を中心にちりばめられた短編連作の中、その物語のもうひとりの主人公は、死して尚、女たちの心に色濃く影を落とし続ける影山博人その人だ。読めば読むほど死者である彼の存在感が浮き彫りになっていく。実の息子である武博の中にも彼の姿がちらついて、この世から旅立っても、その存在が生きているものを狂わせる男の凄みに鳥肌が立った。(解説より)

※この物語の元となる作品 『ブルース』 を読んだのは、もう随分前になります。数多い桜木作品の中で、今も私の最も好きな作品です。「影山博人」 の登場は衝撃でした。後でも先でも結構ですので、『ブルース』 を読み、彼ががどんな人物だったのかをぜひとも知ってほしいと思います。多くの方が、その生き様に魅了されるに違いありません。(『ブルース』 に、私は滅多に付けない90点を付けました)

この本を読んでみてください係数  80/100

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」他多数

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