『滅私』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『滅私』(羽田圭介), 作家別(は行), 書評(ま行), 羽田圭介
『滅私』羽田 圭介 新潮文庫 2024年8月1日 発行
「楽って、そんなに楽してなにがしたいの? 」

物を捨てまくる商売は順調ですか? ミニマリストとして快適な身軽生活を体現する冴津の前に現れたのは “過去の自分“ を知る男。芥川賞作家が放つ、不穏さに満ちみちた問題作。
愛着が湧く前に捨てる。それが鉄則だ - 。ライター業の傍ら、極力ものを持たない生活を発信する冴津。貰った物は家に帰ると捨て、家具や服は徹底的に減らし、無駄を削ぎ落すことを追求する日々。そんな 「身軽生活」 を体現する彼の前に現れた “かつての自分“ を知る男。その出会いは記憶の暗部を呼び起こし、信じていた世界を徐々に崩壊させていく。芥川賞作家が放つ、不穏でスリリングな超問題作。(新潮文庫)
羽田圭介という人物がとびっきりの変人 (=個性的) であるというのは、もはや疑いようがありません。(キャラが濃すぎて友だちにはなれそうもありませんが) 彼が書く小説は、出る度テーマが異なり斬新で (くやしいけれど) 読まずにはいられません。毒があり、サスペンスとしても読み応え十分な一冊ですが、伝えたかったのは社会の風潮への安易な迎合とその反動、そして (それに対する) 警鐘です。
「楽って、そんなに楽してなにがしたいの? 」
訊かれた僕は、たしかに、そんなに楽してどうしたいのかと思った。持たないことで金銭的、空間的な煩雑さから解放され得た余裕で、次になにがしたいのか。祖母が入居している老人ホームの光景が頭をよぎる。若いうちから、寝たきりの老人みたいなのっぺりとした生活に近づこうとしているのか。(本文より)
冴津の心は揺らぎに揺らぎます。それもこれも、彼がしでかした過去の一部始終を知る男が現れたからでした。とうの昔に忘れていたことでした。何事もなくその後何年も経ち、社会人となり、自分の人生になかったこととして、胸の奥深く封印していたことでした。
一見、順調に見える男の人生は、ある出来事をきっかけに徐々に崩壊していきます。物を捨て、身軽になった男は過去をも捨て去ることは出来るのか。現代社会に蔓延る問題に鋭く切り込んだ、不穏さに満ちた作品です。(新潮社 PRTIMES より)
※話は極端で、現実にはありそうもないのですが、読むと 「あるかも」 と思えてしまうところがさすがだと。ほかの誰でもない、彼 (著者) ならやるだろうと。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆羽田 圭介
1985年東京都生まれ。
明治大学商学部卒業。
作品 「黒冷水」「ミート・ザ・ビート」「御不浄バトル」「不思議の国の男子」「スクラップ・アンド・ビルド」「メタモルフォシス」「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」「成功者K」他多数
関連記事
-
-
『むらさきのスカートの女』(今村夏子)_書評という名の読書感想文
『むらさきのスカートの女』今村 夏子 朝日新聞出版 2019年6月20日第1刷 近
-
-
『黒冷水』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
『黒冷水』羽田 圭介 河出文庫 2005年11月20日初版 兄の部屋を偏執的にアサる弟と、罠(
-
-
『ミスター・グッド・ドクターをさがして』(東山彰良)_書評という名の読書感想文
『ミスター・グッド・ドクターをさがして』東山 彰良 幻冬舎文庫 2014年10月10日初版 医
-
-
『Phantom/ファントム』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
『Phantom/ファントム』羽田 圭介 文春文庫 2024年9月10日 第1刷 FIREの
-
-
『整形美女』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文
『整形美女』姫野 カオルコ 光文社文庫 2015年5月20日初版 二十歳の繭村甲斐子は、大きな瞳と
-
-
『監殺』(古野まほろ)_書評という名の読書感想文
『監殺』古野 まほろ 角川文庫 2021年2月25日第1刷 唯一無二 異色の警察ド
-
-
『盲目的な恋と友情』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『盲目的な恋と友情』辻村 深月 新潮文庫 2022年12月5日9刷 これがウワサの
-
-
『月』(辺見庸)_書評という名の読書感想文
『月』辺見 庸 角川文庫 2023年9月15日 3刷発行 善良無害をよそおう社会の表層をめく
-
-
『百瀬、こっちを向いて。』(中田永一)_書評という名の読書感想文
『百瀬、こっちを向いて。』中田 永一 祥伝社文庫 2010年9月5日初版 「人間レベル2」 の僕は
-
-
『カルマ真仙教事件(上)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文
『カルマ真仙教事件(上)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 警視庁公安部OBの鷹田