『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2019/10/23
『月の上の観覧車』(荻原浩), 作家別(あ行), 書評(た行), 荻原浩
『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行
本書『月の上の観覧車』は著者5作目の短編集。荻原浩が書く本は、ほんとうに「安心」して読めます。奇を衒わず、ちょっと優しい気持ちになりたいときには最適の読み物です。
人生の半ばを迎え、あるいは峠を少し越えて人が想うこと、自分のでこぼこした半生や共に暮らす伴侶のこと、久しく会わなくなった幼い頃の友のこと、
やり遂げたこととやり残したこと、救われた気持ちや裏切られた切なさなど、誰しもが振り返り改めて思うことのあれこれを、当人になり代わり、優しく語ってくれます。一生懸命生きてきた人々の「今」に焦点をあて、その意味を教えてくれます。
「トンネル鏡」・・・・・・・ 東京から故郷の日本海に面した小さな町に帰る列車の中で、今までの人生を辿る男の話。大学受験で上京してから30年、「私」 は50歳を目の前に証券会社を退職しました。現在は離婚しており、故郷で一人暮らしていた母親も亡くなりました。閉ざされて何もない小さな海沿いの町。酒を飲み煙草を喫い、ド演歌を唸る母親から逃げるようにして東京へ向かった 「私」 は、再び故郷の町で暮らそうとしています。
「上海租界の魔術師」・・・・・・・ 若い頃上海でマジシャンをしていた祖父の話。
「レシピ」・・・・・・・ 書き溜めたレシピノートで昔の恋を想う主婦の話。
「金魚」・・・・・・・ 鬱になった男が金魚を通して亡き妻を想う話。
「チョコチップミントをダブルで」・・・・・・・ 離婚した妻に引取られた娘と年に一度だけ会う男の話。
「ゴミ屋敷モノクローム」・・・・・・・ ゴミ屋敷に住む老女と若い公務員の話。
「胡瓜の馬」・・・・・・・ 故郷の好きだった少女の話。昔好きだった少女は、今もやっぱり好きなのです。結婚した妻を愛することとは別に、少女の面影が男の胸から消え去ることはありません。
「月の上の観覧車」・・・・・・・ 夜の観覧車で自分の人生をなぞる年老いた男の話。
誰にでも、死者とつかの間出会える瞬間がある・・・・・・・「私」の場合、その場所が観覧車でした。閉園後の遊園地。この施設のオーナーである 「私」 は、高原に立つ観覧車に妻の遼子と乗り込みます。月に向かって夜空を上昇していくゴンドラのなかで、先天的な疾患と障害をもち夭折した息子・久生のことを、二人して思い出しています。
物語の主人公の現在や思い起こす過去のどれかに、必ずやあなたの人生と重なる感慨を発見することになります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆荻原 浩
1956年埼玉県大宮市生まれ。
成城大学経済学部卒業。広告制作会社、コピーライターを経て、1997年小説家デビュー。
作品 「オロロ畑でつかまえて」「コールドゲーム」「明日の記憶」「お母様のロシアのスープ」「あの日にドライブ」「四度目の氷河期」「愛しの座敷わらし」「砂の王国」他多数
◇ブログランキング
関連記事
-
-
『きみのためのバラ』(池澤夏樹)_書評という名の読書感想文
『きみのためのバラ』池澤 夏樹 新潮文庫 2010年9月1日発行 きみのためのバラ (新潮文庫
-
-
『夏の陰』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文
『夏の陰』岩井 圭也 角川文庫 2022年4月25日初版 出会ってはならなかった二人
-
-
『噂』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『噂』荻原 浩 新潮文庫 2018年7月10日31刷 噂 (新潮文庫) 「レインマンが出没し
-
-
『夜のピクニック』(恩田陸)_書評という名の読書感想文
『夜のピクニック』恩田 陸 新潮文庫 2006年9月5日発行 夜のピクニック (新潮文庫)
-
-
『図書準備室』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文
『図書準備室』 田中 慎弥 新潮社 2007年1月30日発行 図書準備室 (新潮文庫)
-
-
『新装版 汝の名』(明野照葉)_書評という名の読書感想文
『新装版 汝の名』明野 照葉 中公文庫 2020年12月25日改版発行 新装版 汝の名 (中
-
-
『ナオミとカナコ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『ナオミとカナコ』奥田 英朗 幻冬舎文庫 2017年4月15日初版 ナオミとカナコ (幻冬舎文
-
-
『太陽と毒ぐも』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『太陽と毒ぐも』角田 光代 文春文庫 2021年7月10日新装版第1刷 太陽と毒ぐも (文春
-
-
『生皮/あるセクシャルハラスメントの光景』(井上荒野)_書評という名の読書感想文
『生皮/あるセクシャルハラスメントの光景』井上 荒野 朝日新聞出版 2022年4月30日第1刷
-
-
『楽園の真下』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『楽園の真下』荻原 浩 文春文庫 2022年4月10日第1刷 「日本でいちばん天国に