『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/14
『月の上の観覧車』(荻原浩), 作家別(あ行), 書評(た行), 荻原浩
『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行
本書『月の上の観覧車』は著者5作目の短編集。荻原浩が書く本は、ほんとうに「安心」して読めます。奇を衒わず、ちょっと優しい気持ちになりたいときには最適の読み物です。
人生の半ばを迎え、あるいは峠を少し越えて人が想うこと、自分のでこぼこした半生や共に暮らす伴侶のこと、久しく会わなくなった幼い頃の友のこと、
やり遂げたこととやり残したこと、救われた気持ちや裏切られた切なさなど、誰しもが振り返り改めて思うことのあれこれを、当人になり代わり、優しく語ってくれます。一生懸命生きてきた人々の「今」に焦点をあて、その意味を教えてくれます。
「トンネル鏡」・・・・・・・ 東京から故郷の日本海に面した小さな町に帰る列車の中で、今までの人生を辿る男の話。大学受験で上京してから30年、「私」 は50歳を目の前に証券会社を退職しました。現在は離婚しており、故郷で一人暮らしていた母親も亡くなりました。閉ざされて何もない小さな海沿いの町。酒を飲み煙草を喫い、ド演歌を唸る母親から逃げるようにして東京へ向かった 「私」 は、再び故郷の町で暮らそうとしています。
「上海租界の魔術師」・・・・・・・ 若い頃上海でマジシャンをしていた祖父の話。
「レシピ」・・・・・・・ 書き溜めたレシピノートで昔の恋を想う主婦の話。
「金魚」・・・・・・・ 鬱になった男が金魚を通して亡き妻を想う話。
「チョコチップミントをダブルで」・・・・・・・ 離婚した妻に引取られた娘と年に一度だけ会う男の話。
「ゴミ屋敷モノクローム」・・・・・・・ ゴミ屋敷に住む老女と若い公務員の話。
「胡瓜の馬」・・・・・・・ 故郷の好きだった少女の話。昔好きだった少女は、今もやっぱり好きなのです。結婚した妻を愛することとは別に、少女の面影が男の胸から消え去ることはありません。
「月の上の観覧車」・・・・・・・ 夜の観覧車で自分の人生をなぞる年老いた男の話。
誰にでも、死者とつかの間出会える瞬間がある・・・・・・・「私」の場合、その場所が観覧車でした。閉園後の遊園地。この施設のオーナーである 「私」 は、高原に立つ観覧車に妻の遼子と乗り込みます。月に向かって夜空を上昇していくゴンドラのなかで、先天的な疾患と障害をもち夭折した息子・久生のことを、二人して思い出しています。
物語の主人公の現在や思い起こす過去のどれかに、必ずやあなたの人生と重なる感慨を発見することになります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆荻原 浩
1956年埼玉県大宮市生まれ。
成城大学経済学部卒業。広告制作会社、コピーライターを経て、1997年小説家デビュー。
作品 「オロロ畑でつかまえて」「コールドゲーム」「明日の記憶」「お母様のロシアのスープ」「あの日にドライブ」「四度目の氷河期」「愛しの座敷わらし」「砂の王国」他多数
◇ブログランキング
関連記事
-
『悪寒』(伊岡瞬)_啓文堂書店文庫大賞ほか全国書店で続々第1位
『悪寒』伊岡 瞬 集英社文庫 2019年10月22日第6刷 男は愚かである。ある登
-
『八月の銀の雪』(伊与原新)_書評という名の読書感想文
『八月の銀の雪』伊与原 新 新潮文庫 2023年6月1日発行 「お祈りメール」 ば
-
『だから荒野』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『だから荒野』桐野 夏生 文春文庫 2016年11月10日第一刷 46歳の誕生日、夫と2人の息子と
-
『神様からひと言』(荻原浩)_昔わたしが、わざとしたこと
『神様からひと言』荻原 浩 光文社文庫 2020年2月25日43刷 大手広告代理店
-
『砕かれた鍵』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『砕かれた鍵』逢坂 剛 集英社 1992年6月25日第一刷 『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』に続くシリ
-
『虫娘』(井上荒野)_書評という名の読書感想文
『虫娘』井上 荒野 小学館文庫 2017年2月12日初版 四月の雪の日。あの夜、シェアハウスで開か
-
『私の家では何も起こらない』(恩田陸)_書評という名の読書感想文
『私の家では何も起こらない』恩田 陸 角川文庫 2016年11月25日初版 私の家では何も起こら
-
『Mの女』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文
『Mの女』浦賀 和宏 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 ミステリ作家の冴子は、友人・亜美から
-
『きみはだれかのどうでもいい人』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文
『きみはだれかのどうでもいい人』伊藤 朱里 小学館文庫 2021年9月12日初版
-
『無理』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『無理』奥田 英朗 文芸春秋 2009年9月30日第一刷 〈ゆめの市〉は、「湯田」「目方」「