『バリ山行』(松永K三蔵)_書評という名の読書感想文

『バリ山行』松永K三蔵 講談社 2024年7月25日 第1刷発行

第171回芥川賞受賞作

古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で変人扱いされ孤立しているベテラン社員妻鹿があえて登山路を外れる難易度の高い登山 「バリ山行」 をしていることを知ると・・・・・・・。

山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか! 本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ! 生活ですよ。妻鹿さんはそれから逃げてるだけじゃないですか!

会社も人生も山あり谷あり。バリの達人と危険な道行き。圧倒的な生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。(講談社)

2024年 (上半期) の芥川賞受賞作が、朝比奈秋の 『サンショウウオの四十九日』 と 松永K三蔵の 『バリ山行 (さんこう)』。そして直木賞受賞作が、一穂ミチの 『ツミデミック』 でした。

中で私が最も読みたかったのは 『サンショウウオの四十九日』 で、次に読みたいと思ったのが 『ツミデミック』 でした。二人の他の作品を (それぞれ一冊ずつではありますが) 既に読んでおり、今回の受賞作についても大いに興味が湧き、これは読まねばと強く感じたからでした。

松永K三蔵というペンネームに、最初私は何かしら “ふざけた“ ものしか感じることができませんでした。読んでもたぶんおもしろいとは思わない、あるいは (芥川賞にはありがちな) 意味不明な文章を読まされる、そんな先入観でもって読まずに済ますつもりでいました。

きっかけは何だったのか、たまたま目にした新聞か何かの書評だったかもしれません。とにかく読んではみようと思い立ち、買ったその日に読み出して、その日の内に読み終えました。

先の二作と比べ、何より読みやすかったのが驚きで、意外なことに、一番 「普通」 でした。普通にある (ありそうな) 日常の、起こるであろう 「普通の出来事」 が縷々綴られています。「バリ」 は、その (日常の) 一端にしか過ぎません。

山行は大きな要素ではありつつ、主人公と我が道を行く妻鹿の関係など、男性同士の連帯や摩擦を描いたサラリーマン小説と読んだ。木漏れ日やこけむした石、草いきれ、ぬかるむ地面など、五感に訴える山中の情景描写が素晴らしかった。主人公の心情が丹念に描かれ読みやすい半面、分かりやすすぎる気もした。(東京新聞/新人イイダさんの感想)

※今更ではありますが、本は読んでみなければわかりません。読んでもいないのに、決めつけてはいけません。ましてや、ペンネームなどに惑わされてはなりません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆松永K三蔵
1980年生まれ。関西学院大学卒業。兵庫県西宮市在住。日々六甲山麓を歩く。

作品 2021年 「カメオ」 で第64回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー。同作は 「群像」 2021年7月号掲載。

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