『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2026/09/27 『作家刑事毒島の嘲笑』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(さ行)

『作家刑事毒島の嘲笑』中山 七里 幻冬舎文庫 2024年9月5日 初版発行

性格最悪同士の最低の化かし合い。狙いは選挙!? テロは阻止できるのか - 。

毒舌刑事が鋭い口撃を武器に犯罪者を追う、大人気 「作家刑事毒島」 シリーズ第3弾!

右翼系雑誌を扱う出版社が放火された。思想的テロと見て現場を訪れた公安の淡海は、作家兼業の刑事・毒島と出会う。犯罪者をいたぶることが趣味の彼は公安の考えも小馬鹿にし、淡海は反発。衆議院選挙が迫る中、さらに極左集団が絡む事件が勃発、ついに魔の手は候補者に向かう。テロは防げるのか - 。歪んだ正義を毒舌刑事が斬る痛快ミステリー。(幻冬舎文庫)

斬るべきは、斬る。遠慮や忖度などは一切ありません。下調べは万全で、相手は返す言葉もありません。追い込むだけ追い込んで、時に嘲笑するようなその尋問のやり方は、まさに毒島の真骨頂と言えるものでした。(おまけに、彼はかなりの人気作家であるらしい) 

〈作家刑事毒島〉 シリーズに登場する犯人は、一作目の 『作家刑事毒島』 の頃から変わらず鬱屈としたコンプレックスを抱え、肥大する自我を歪ませてしまった人間達である。本作では、望んだ自己実現が叶わなかった人間達がより大きな 「思想」 に自我を託して、怒りの刃を振るう様が描かれる。それ故に、彼らの 「思想」 は蓋を開けてみれば空虚なものばかりだ。

そんな犯人達に対し毒島はいつものように鋭い舌鋒を浴びせかけ、その空虚さを暴く。その最中、毒島は自身の作家としての 「思想」 に触れる。

彼は 「一つの思想に縛られるなんて物語を構築する上では邪魔でしかない」 とばっさり言い切り、思想信条で腹は膨れないと笑ってみせる。なんとも彼らしい言い分だ。ビジネスライク極まれりだが、毒島の言だと思えば納得もいく。

だが、物語が進んでいくにつれ、毒島の本当の 「思想」 とも言えるべきものが出てくる。それはプロ市民である鳥居を丸め込む為に言ったこの言葉だ。

「物書き全員が左翼思想の持ち主とは限らないけれど共通点もある。それは立場の弱いものやマイノリティに寄り添いたいという精神。」 (「三 されど私の人生」)

同行していた淡海は抱き込みの詭弁と呆れているが、私はこの言葉は毒島の作家としてのスタンスの深部にあるものなのではないか、とも思った。毒島は刑事としては異端の存在であるが、彼なりの矜持を持って悪に相対している存在でもある。同様の矜持が、確固たる 「思想」 が作家としての毒島にもあるのではないか、と今巻ではひしひしと感じられる。

その思想は、実は他ならぬ中山七里に共鳴するところがあるのだ。(解説より)

中山七里と毒島真理。名前の 「し」 と 「り」 がおんなじで、もしかすると二人はかなり近しい存在 - “分身“ ではないかしらと。(著者にとって毒島は) こうありたいと願う理想的な人物で、密かに “憧れ“ ているのではないかと思うのですが。皆さんは、どうでしょう?

目次

一 大いなる
二 祭りのあと
三 されど私の人生
四 英雄
五 落葉   解説 斜線堂有紀

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里 1961年岐阜県生まれ。花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「贖罪の奏鳴曲」「追憶の夜想曲」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「境界線」他多数

関連記事

『水声』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『水声』川上 弘美 文春文庫 2017年7月10日第一刷 1996年、わたしと弟の陵はこの家に二人

記事を読む

『翼がなくても』(中山七里)_ミステリーの先にある感動をあなたに

『翼がなくても』中山 七里 双葉文庫 2019年12月15日第1刷 陸上200m走

記事を読む

『迅雷』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『迅雷』黒川 博行 双葉社 1995年5月25日第一刷 「極道は身代金とるには最高の獲物やで」

記事を読む

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷 お馴染み御茶ノ水

記事を読む

『慈雨』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『慈雨』柚月 裕子 集英社文庫 2019年4月25日第1刷 警察官を定年退職し、妻

記事を読む

『問いのない答え』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『問いのない答え』長嶋 有 文春文庫 2016年7月10日第一刷 何をしていましたか? ツイッター

記事を読む

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日 第1刷発行 2022年本

記事を読む

『JR品川駅高輪口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR品川駅高輪口』柳 美里 河出文庫 2021年2月20日新装版初版 誰か私に、

記事を読む

『ふくわらい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『ふくわらい』西 加奈子 朝日文庫 2015年9月30日第一刷 マルキ・ド・サドをもじって名づ

記事を読む

『残穢』(小野不由美)_書評という名の読書感想文

『残穢』小野 不由美 新潮文庫 2015年8月1日発行 この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

『ささやかな、あるいは取り返しがつかないもの』 (八木詠美)_書評という名の読書感想文

『ささやかな、あるいは取り返しがつかないもの』 八木 詠美 筑摩書房

『善人たち』 (遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『善人たち』 遠藤 周作 新潮文庫 2026年9月1日 発行

『新しい恋愛』 (高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『新しい恋愛』 高瀬 隼子 講談社文庫 2026年8月12日 第1刷

『可燃物/県警捜査第一課葛警部』 (米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『可燃物/県警捜査第一課葛警部』 米澤 穂信 文春文庫 2026年9

『わたしが・棄てた・女』 (遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『わたしが・棄てた・女』 遠藤 周作 新潮文庫 2026年9月1日

→もっと見る




  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑