『じい散歩』(藤野千夜)_書評という名の読書感想文

『じい散歩』藤野 千夜 双葉文庫 2024年3月11日 第13刷発行

読み終えた僕は、胸を温かく包まれ、そして涙を流している。介護や親との別れが始まるぼくらの世代こそが読んで欲しい小説。(杉江由次氏/WEB本の雑誌より)

シリーズ累計17万部突破! 新聞、ラジオなど15以上のメディアで絶賛!

夫婦あわせて、もうすぐ180歳。中年となった3人の息子たちは、全員独身 - 。明石家の主である新平は散歩が趣味の健啖家で、女性とのコミュニケーションが大好き。妻は、そんな夫の浮気をしつこく疑っている。長男は高校中退後、ずっと引きこもり。次男は恋人が男性の自称・長女。三男はグラビアアイドル撮影会を主催しては赤字で、親に無心ばかり。皆いろいろあるけれど、「家族」 の日々は続いてゆく。そんな一家の日常をユーモラスに、温かな眼差しで綴った物語。解説・木内 昇 (双葉文庫)

老後の日々を如何に有意義に過ごすかは、思った以上に難しい。やりたいことは山ほどあったのに、気付くと身体が思うように動きません。頭の回転が鈍くなった気がするのは単なる思い過ごしではないかと思うのですが、家族は総じて (そういう私を) 憐れむように見つめます。

「最近頓に物忘れがひどくなった」 「話が回りくどくて要領を得ない」 と妻は言います。若い頃と何も変わってないと思うのですが、そう信じているのは、もしかすると私だけかもしれません。新平や英子ほどではないにせよ、私は確実に歳を取りました。介護に頼る日々も、そう遠いことではありません。

なにごとにも動じず、他者にはおしなべて寛容に接し、心穏やかに過ごしている。一方で、ここぞというときには含蓄ある言葉を差し出し、時には身を挺して大切なものを守る - 若かりし頃の私は、高齢者に対して、そんなイメージを抱いていた。(以下略)

ところがどうだ。自分が初老といわれる歳になり、また、八十を過ぎた親などと接するにつれ、長らく抱いていた老人像はあえなく瓦解したのである。歳を重ねても悩みは尽きないし、心配事も容赦なく降り注いでくる。むしろ、若い頃より悩みの質は深刻度を増している。

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本書に登場する新平もまた、九十の声を聞いた今なお、頭の痛い問題をいくつも抱えている。引きこもりの長男・孝史、スカートをはく次男・健二、借金まみれの三男・雄三という三人の子はそろって未婚、当然ながら孫はいない。すでに家を出ている健二があれこれ気を利かせて一家の程よい緩衝材になってはいるものの、五十前後の同居の息子たちの面倒を見、認知症の症状が見受けられるようになったひとつ年下の妻・英子の言動に気を揉む日々だ。

状況だけ羅列すると、社会現象ともなっている8050問題を想起するかもしれない。だが物語は、悲愴で重々しい方向へは転がっていかないのだ。ままならない現実を抱えながらも、ルーティンの散歩に出掛ける新平の様子は、不思議と愉快で豊かに見える。(解説より抜粋)

※一つ違いの妻のことが心配で、三人の息子のことが心配で、今年十月には八十九歳になる新平は、自分の心配をする余裕がありません。というか、新平は敢えて自分のことを 「心配するのを放棄」 しているようにも見受けられます。なるようになる。なるようにしか、ならないと。その潔さが読者の何かに刺さり、勇気づけてもいるのではないかと。

(外から見ると) 家族の状況はかなり悲惨ではありますが、案外新平は平気なふうで、自由気ままに昼日中を過ごしています。妻の英子も、三人の息子も、基本そんな新平を認めています。それが 「家族のカタチ」 で、新平がたどり着いた老後の 「生き方」 でした。

この本を読んでみてください係数 85/10

◆藤野 千夜
1962年福岡県生まれ。
千葉大学教育学部卒業。

作品 95年 「午後の時間割」 で第14回小説海燕新人文学賞、98年 「おしゃべり怪談」 で第20回野間文芸新人賞、2000年 「夏の約束」 で第122回芥川賞受賞。その他の著書に 「ルート225」「編集ども集まれ! 」「団地のふたり」「時穴みみか」「じい散歩 妻の反乱」他多数

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