『オーラの発表会』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『オーラの発表会』綿矢 りさ 集英社文庫 2024年6月25日 第1刷

綿矢りさワールド全開! 海松子大学一年生風変わりな女子大学生が主人公!  

人を好きになる気持ちが分からないんです」 

大学一年生の海松子 (みるこ) は、対人関係が苦手。お洒落や恋には興味なし。特技は脳内で他人に (失礼な) あだ名をつけることで、口臭から相手が食べたものを当てる能力を磨き中。友達は、人の髪型や服を真似する 「まね師」 の萌音だけ。人を好きになる気持ちもわからないのに、幼馴染とイケメン社会人から好意を寄せられていて!? 周りとうまくやりたいのにやれない主人公の、不器用で愛おしい恋愛未満小説。(集英社文庫)

それはもう、みごとという他ありません。海松子がする言動はズレにズレまくり、(彼女にすればそんなつもりは一ミリもないのですが、それらの言動は) 往々にして相手を不快な気分にさせてしまいます。あげく変人と見られ、距離を置かれて (高校以来のつきあいの萌音以外に) 気安く話せる友もいません。

ところが、ところが。特筆すべきは、そこではありません。そんな状況をして海松子は、日常生活においても精神的にも、何ら支障なく過ごしています。自分と周りの人との “差“ に多少の疑問は感じつつも、概ね平穏な日々を送っています。

そんな海松子は恋愛をしたことがありません。大学生になった今も、男性と手さえ握ったことがありません。(恋愛の) 仕方がわかないというか、興味がないというか。とにかく超が付くほど奥手な女子大生でした。

いやはや奇天烈な主人公である。彼女が繰り広げる一風変わった日々は、そこはかとなくおかしい。

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『オーラの発表会』 はそんな海松子のキャンパスライフと、恋愛模様が描かれていく。彼女を軸に、おしゃれの目標と定めた人物を完璧にコピーする特殊能力を持つ友人の祝井萌音と、二人の恋人候補が絡んでくる。一人は大学教授である父の元教え子、諏訪蓮吾、もう一人は幼馴染、森田奏樹だ。

萌音は高校時代の同級生で、なんとその頃は海松子を完コピしていた。つまり、当時の海松子はおしゃれだったのだ。しかし今はその面影もない。この理由も後々明らかになって納得の展開になるのだが、ともあれ海松子に対する興味を失った萌音とは大学入学後、疎遠になる。しかし、完コピの性癖がバレ、仲間から疎まれると再び海松子にまとわりつく。この萌音が狂言回しとしていい働きをするのだが、それはここでは置いておく。とにかく周囲は完コピをバカにしてくるものの、海松子はその能力を高く評価し続ける。

そもそも海松子は “脳内あだ名“ で萌音を 「まね師」 と呼んでいたが、これはあなどっているからではなく、単なる特徴を表しているだけなのだ。諏訪は、一瞬嗅いだプリングルズのサワークリーム&オニオン味の匂いから 「サワクリ兄」、奏樹は親の職業から 「七光殿」 である。これはこれで面白い海松子の見方であるが、笑ってばかりもいられない。ある一面しか切り取っておらず、そこから一歩も進まないことに、すわり心地の悪さも覚える。この心地悪さの先に及ぶ筆運びがみごとだ。

その筆はこんなふうに進む。「あぶらとり神」 こと大学のクラスメートに悩みを打ち明けられたり、恋の熟練者であろうと諏訪に積極的なアプローチをかけられたりして海松子は混乱に陥る。さすがに若干周囲とのズレを感じ始め、「普通」 に悩むことになる。するととんでもない力が発動する。海松子はじめ登場人物たちはカリカチュアライズされているので、この力の発現もむべなるかな、である。そしてタイトルの 「オーラの発表会」 とはこれであったか、という大団円に向かって驀進する。(解説より)

※「綿矢りさは、こうではなくては! 」 と思える一冊を久しぶりに読みました。この年ごろの女子を描かせれば、天下一品。その 「無敵さ」 を、余すことなく堪能できるはずです。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆綿矢 りさ
1984年京都府京都市左京区生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文科卒業。

作品 「インストール」「夢を与える」「蹴りたい背中」「憤死」「勝手にふるえてろ」「かわいそうだね?」「ひらいて」「しょうがの味は熱い」「大地のゲーム」「パッキパキ北京」他

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