『血腐れ』(矢樹純)_書評という名の読書感想文
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『血腐れ』(矢樹純), 作家別(や行), 書評(た行), 矢樹純
『血腐れ』矢樹 純 新潮文庫 2024年11月1日 発行
戦慄の家族図鑑 ホラー ✕ イヤミス 衝撃の二重奏
亡き夫に唇を触られたと語り出した義妹 (「魂疫」)。縁切り神社で行われる “儀式“(表題作)。忌まわしき伝承を持つ鐘が鳴るとき (「声失せ」)。原因不明の熱に苦しむ息子に付き添う私に近づいてきた女 (「影祓え」)。身近な者の災難や死が切り裂いた日常。煉獄の扉を開くのは、無念を抱く冷たい死者か、あなたの傍らで熱を放つ家族か。禁忌を踏みこえた先に見える真相。戦慄のホラー・ミステリー短編集。(新潮文庫)
たまたま目にして読んだ (著者の代表作) 『夫の骨』 や 『妻は忘れない』 は、私の好みにピタリと合いました。なので、この本も同様に、きっと (正体不明の不安でゾワゾワするような)得難い時間を与えてくれるだろうと。
解説によりますと、この短編集は著者が 「新境地を開いた一冊」 であるらしい。全作に共通する特徴を一口で言うと 「ただならぬ不穏さ」 だということですが、さて、それをどこまで感じることができるでしょう。評価は、案外別れるかもしれません。
巻頭の 「魂疫 (たまえやみ)」 の語り手である芳枝は、人生の半分以上をともに過ごしてきた夫にがんのために先立たれ、気力を失ってしまっている。その彼女にとって最も近い存在となるのが、夫の妹である勝子だ。もともと勝子には他人に眉を顰めさせるがさつさがあったが、最近になって奇妙なことを言い出した。亡き夫の霊を見るようになったというのである。芳枝は勝子が認知症なのではないかと疑う。(以下略)
二篇目が表題作で、〈私〉 こと幸菜の記憶を巡る物語だ。幸菜は子供のころ、晴香という少女に嫌がらせを受けていた時期があった。実家から車で三十分ほどの距離のところに、縁切り神社として知られる場所があり、幸菜はそこに晴香との別れを祈ったことがある。縁切りの秘儀には、遠ざけたいと願う相手の血液が必要となるのである。血を巡る過去の記憶が現在に滲出して、大人になった幸菜の視界に赤黒い染みを作っていく。
介護の問題を軸に家族のしがらみが描かれる 「骨煤 (ほねずす)」、日常があるものによって次第に狂わされていくという 「爪穢し (つめけがし)」、都市伝説探査の話と見えたものが次第に変貌していく 「声失せ (こわうせ)」、我が子が正体不明の病魔に襲われるという狂おしい恐怖の物語 「影祓え (かげはらえ)」 と、粒よりの短篇が揃っている。(解説より)
※それはちょっとリアルではないような。ただのあなたの思い過ごしではないですか。と思う気持ちと、いやいや、私にもそれに似た経験や嫌な思いをしたことがある。忘れたいことを忘れるために、全部を他人 (ひと) のせいにしたことや、死んだ人のせいにしたことが、(大きな声では言えませんが) ないとは言えません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆矢樹 純
1976年青森県青森市生まれ。
弘前大学人文学科卒業。
作品 「夫の骨」「妻は忘れない」「Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件」「がらくた少女と人喰い煙突」「マザー・マーダー」「幸せの国殺人事件」など
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