『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊 SAT 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊 SAT 』誉田 哲也 中公文庫 2021年2月25日 改版発行

シリーズ累計320万部突破! すべてはこの三冊から始まった - (そのⅡ)

連続児童誘拐事件は、巨大な陰謀へと繋がっていく。二人の若き女性刑事を待つ過酷な運命とは。静かな展開の中、心を熱くさせる躍動感。誉田哲也作品の真髄がここにある。(『ジウⅠ』)

お前だけ、破滅はさせない

連続児童誘拐事件の現場で、ついに殉職者を出してしまった警視庁は、威信にかけて黒幕・ジウを追う。実行犯の取り調べを続ける東警部補と門倉巡査は、〈新世界秩序〉 という巨大な闇の存在を知り、更なる事件の予兆に戦慄する。一方、特進を果たした伊崎巡査部長は特殊急襲部隊から所轄署へ異動。そこにも不気味な影が・・・・・・・。〈解説〉 宇田川拓也 (中公文庫)

いよいよ、事の予兆が見え隠れし始めます。その渦中で目立って特異な動きをするのが伊崎基子巡査、その人です。彼女は並の警察官ではありません。必要とあらば、簡単に人を殺します。殺すことに、何ら躊躇がありません。

新装版解説 大スケールを支える型破りな変容 (メタモルフォーゼ)

これからどう育っていくのだろうと愉しみに目を注いでいた若い木が、めきめきと荒々しい音をたてながら見たこともない異形の巨木に姿を変えるような - 。

誉田哲也 『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊』 に覚えた驚きは、それくらい大きなものだった。

当時、『ジウⅠ』 を読み終えた段階で抱いていたのは、警視庁のなかでも捜査一課ではなく特殊犯捜査係 “SIT“ (Special Investigation Team) に着目した珍しさを、柔と剛を体現したタイプの異なるふたりの若い女性警察官を物語の中心に据えた斬新さ、一連の事件の背後に蠢く手強い犯罪者 “ジウ“ の危険な魅力、繰り出されるアクションシーンの冴え、激しい展開と恋愛要素の絶妙な絡ませ方、読み始めたら止まらなくなる抜群のリーダビリティ、手に汗握るクライマックスと次巻にすぐさま手を伸ばしたくなるラスト等々、読みどころと美点をいくつも備えた警察小説が現れた - といった印象で、いま思えば、まったく浅はかであった。

今回、改めて全三巻からなる 『ジウ』 に寄せられた様々な称賛の声を確認してみると、やはり予想を超えるスケールの大きさを挙げている向きが少なくない。

起承転結と並ぶ構成パターンのひとつ 「序破急」 でいえば “破“ にあたる本作は、単に “序“ と “急“ をつなぐだけでなく、まさに型を破るがごとき驚きの変容によってその大スケールを支える極めて重要な役割を担っている。

(以下、その端緒のみを記します)

この変容に注目し、とくに読み逃せないポイントを三つに絞ると、まずひとつ目は、各章の で綴られる、なる何者かの独白だ。

ふたつ目のポイントは、第二章から第三章にかけて、前作で碑文谷署生活安全課に異動となった門倉美咲、刑事部捜査一課殺人犯主任の東弘樹警部補、ふたりが担当する、沙耶華ちゃん事件 実行犯グループのひとり - 元自衛官の竹内亮一の取り調べの場面だ。

ここで初めて、三巻目のサブタイトルにもなっている新世界秩序というワードが発せられ、東はその真意を探るべく竹内を相手に言葉のやり取りを重ねていく。ここでの格闘シーンにも劣らない一対一のただならぬ緊張感は、美咲が もし東が呑み込まれて、あっち側に引き入れられてしまったら と想像してしまうほど不穏で、本作のなかでも指折りの見せ場のひとつになっている。

そしてみっつ目は第五章、伊崎基子に氷の世界が訪れる瞬間だ。(解説より)

※ひとつ目。最初 「これはいったい誰?・・・・・」 と思うのですが、読み進めると 「なるほど、そういうことか」 とすぐに気付きます。一人の名もなき少年が “ジウ“ となるはるか以前、事は既に始まっていたということ。何かしら、とてつもなく大きな “事“ が - 。

ふたつ目。「見せ場」 であるには違いないのですが、やや観念的で抽象に過ぎ、消化不良のままにやり過ごしてしまうかもしれません。竹内が話す内容はあまりに壮大かつ非現実的で、やろうとする具体的な行動までを明確に見通すまでには至りません。

そして何より驚いたのが、みっつ目。詳しくは言えませんが、伊崎基子が俄然面白い。様々際どい場面がありますが、彼女は死にそうで死にません。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆誉田 哲也
1969年東京都生まれ。
学習院大学経済学部経営学科卒業。

作品 「妖の華」「アクセス」「ストロベリーナイト」「ハング」「あなたが愛した記憶」「背中の蜘蛛」「主よ、永遠の休息を」「レイジ」「ジウ」シリ-ズ「もう、聞こえない」他多数

関連記事

『イモータル』(萩耿介)_書評という名の読書感想文

『イモータル』萩 耿介 中公文庫 2014年11月25日初版 インドで消息を絶った兄が残した「智慧

記事を読む

『静かに、ねぇ、静かに』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『静かに、ねぇ、静かに』本谷 有希子 講談社 2018年8月21日第一刷 芥川賞受賞から2年、本谷

記事を読む

『戦争童話集 完全版』(野坂昭如)_書評という名の読書感想文

『戦争童話集 完全版』野坂 昭如 中公文庫 2025年4月25日 初版発行 野坂昭如 没後1

記事を読む

『静電気と、未夜子の無意識』 (木爾チレン)_書評という名の読書感想文 

『静電気と、未夜子の無意識』 木爾 チレン 幻冬舎文庫 2025年9月15日 初版発行 初恋

記事を読む

『それを愛とは呼ばず』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『それを愛とは呼ばず』桜木 紫乃 幻冬舎文庫 2017年10月10日初版 妻を失った上に会社を追わ

記事を読む

『スリーピング・ブッダ』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『スリーピング・ブッダ』早見 和真 角川文庫 2014年8月25日初版 敬千宗の大本山・長穏寺に2

記事を読む

『脊梁山脈』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『脊梁山脈』乙川 優三郎 新潮文庫 2016年1月1日発行 上海留学中に応召し、日本へ復員する

記事を読む

『ざらざら』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『ざらざら』川上 弘美 新潮文庫 2011年3月1日発行 風の吹くまま旅をしよう、と和史が言

記事を読む

『カルマ真仙教事件(中)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文

『カルマ真仙教事件(中)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年8月9日第一刷 上巻(17.6.15発

記事を読む

『殺人鬼フジコの衝動』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『殺人鬼フジコの衝動』真梨 幸子 徳間文庫 2011年5月15日初版 小学5年生、11歳の少

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『あなたはここにいなくとも』 (町田そのこ)_書評という名の読書感想文

『あなたはここにいなくとも』 町田 そのこ 新潮文庫 2026年7月

『清潔な結婚』 (村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『清潔な結婚』 村田 沙耶香 講談社文庫 2026年8月12日 第1

『新古事記』 (村田喜代子)_書評という名の読書感想文

『新古事記』 村田 喜代子 講談社文庫 2026年7月15日 第1刷

『動物哲学物語 ナイス実存』 (ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『動物哲学物語 ナイス実存』 ドリアン助川 集英社インターナショナル

『八月の御所グラウンド』 (万城目学)_書評という名の読書感想文

『八月の御所グラウンド』 万城目 学 文春文庫 2026年8月10日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑