『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『妖怪アパートの幽雅な日常 ① 』香月 日輪 講談社文庫 2008年10月15日第一刷

共同浴場は地下洞窟にこんこんと湧く温泉、とてつもなくうまいご飯を作ってくれる「手首だけの」賄いさん - 十三歳で両親を失った俺が高校進学と同時に入居したのは人呼んで”妖怪アパート” ! 次々と目の当たりにする非日常を前に、俺の今までの常識と知識は砕け散る。大人気シリーズ、待望の文庫化! (講談社文庫)

たとえば -

あなたは会社でトラブルがつづき、一日がかりで解決の目処をたて、それでもだれもほめてくれるひとはなく、上司に退職届を叩きつけてやろうかと思いながら、帰宅途中、エキナカの本屋で、たまには若い人むけの本を読もうと思って、この本を手にとり、どんな内容かと思い、これから解説に目を通そうとしているサラリーマンでしょうか。

だとしたら、このさき読まなくても結構。さっさとこの本をレジへ持っていってお買い求めになるべきです。電車は満員で読めないかもしれませんが、自宅に着いてから夕飯を食べ、お子さんの寝顔を横目で見ながら、この本を読むことをお薦めします。あなた以上のトラブルに見舞われる高校生ががんばって生きている姿に気持ちが癒されるはずですから。(文庫の解説 山本幸久「普通」ってなんだ? より)

手首しかない賄いのるり子さん。いつもどこかを掃除しているのは鈴木さんという女性で、彼女は「お掃除おばさん」と呼ばれています。スーパーモデル級にグラマラスなまり子さんはもと人間で、「事情があって成仏してませ~~~ん」と明るく抜けるように言います。

茜さんはばかでかい犬で、二本足で立つと170センチ以上あります。白地に紅葉の散った柄の美しい着物を着ているものの、大きな耳に爛々と光る鳶色の目玉。ぱっくりと開いた口には犬歯がズラリと並び、血のような舌がたれています。

彼女は山の神に仕える山の犬、つまりは狼で、山の神に仕える「霊獣」といわれています。その茜さんに救われたのがクリという名の少年で、クリに寄り添うようにして、クリの傍にはいつもシロという名の犬がいます。

「クリとシロ」の物語を読んでみてください。

泣いたあなたは、きっと良い人なのだと思います。たとえいくつになっても、この本を読み、もしもあなたがあの頃のように、無垢で純粋な気持ちにつかの間戻れたとしたら、もうそれだけで読んだ意味があるというものです。

シリーズの第一作目。産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞作品です。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆香月 日輪
1963年和歌山県田辺市生まれ。2014年没、享年51歳。
聖ミカエル国際学校英語科卒。

作品「ワルガキ、幽霊にびびる! 」「妖怪アパートの幽雅な日常」シリーズ「ファントム・アレース」シリーズ「地獄堂霊界通信」シリーズ「大江戸妖怪かわら版」シリーズなど

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