『国境事変 〈ジウ〉サーガ4 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『国境事変 〈ジウ〉サーガ4 』誉田 哲也 中公文庫 2024年3月25日 改版発行

Key Person 川尻冬吾 (かわじりとうご) 公安部外事二課四係前田班巡査部長。その捜査能力の高さは、東が刑事部に誘うほど。〈ジウ〉 サーガでは後に、「ある情報」 を持って、再び東の前に姿を現わす。

刑事 VS 公安 国家か、人命か 国境の島を舞台に、激突する警察官の正義

新宿で在日朝鮮人会社社長が殺害された。被害者を内偵中だった公安外事二課は、密かに捜査を開始。だが、事件背後の不審な人脈を手繰っていた捜査一課の東警部補が、彼らの前に現れる - 。CIAも血眼で行方を追う 「アイアン」 とは何か。激しく対立する刑事と公安の男たち。国境の島・対馬で彼らを待つ恐るべき真実とは。(中公文庫)

さてみなさん、『ジウ』 のはじまりのシリーズ -

ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係』 (2005年)
ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊』 (2006年)
ジウⅢ 新世界秩序』 (2006年)

は、いかがだったでしょうか。二人の若き女性警察官、門倉美咲と伊崎基子の命知らずの行動に、謎の少年・ジウの無表情でする殺人に、読んだあなたはハラハラドキドキの連続で、この先かれらはどうなってしまうのか。どこへ行き着くのだろうと気が気ではなかったと思います。

そしてもう一人、忘れてはならないのが、門倉美咲と共にジウを追いかけた、捜査一課殺人犯捜査三係主任・東弘樹警部補の存在です。本作ではこの東警部補が公安外事二課の川尻巡査部長と対峙することになります。同じ警察官でありながらまるで立場の違う二人の闘いは、おのれの命を賭してのものでした。

第四章~第五章にかけてページから迸る熱量。
誉田哲也 『国境事変』 について語るとき、この点に触れず、済ませてしまうわけにはいかない。『ジウ』 三部作に続き、このたび新装化と相成った本作を読み返し、やはりこれまで同様、後半のこの箇所で熱く心を打たれた。

本作が書き下ろし単行本として最初に刊行されたのは、二〇〇七年十一月である。そこから現在までに流れた決して短くない時間、そして世相と国際情勢の大きな変化を思うと、本作の主題と物語の力が少しも錆びついていない事実には、感服せずにはいられない。

『国境事変』 は当初、圧倒的なインパクトでその名を轟かせた 『ジウ』 三部作にも登場した刑事 - 東弘樹が再登場するスピンオフといった捉えられ方をしていたように思う。その後、文庫化を経て、〈ジウ〉 サーガのエピソード4として正式にナンバリングされ、『ハング』 とともに、『歌舞伎町セブン』 への流れをつなぐ重要な位置づけを得るに至った。

それは確かに為されるべき必要な措置ではあったのだが、サーガのいちエピソードとされることで、近年の読者には作品単体としての評価がいささか見えづらくなってしまった感も否定できない。『ジウX』 までの十作品で、三百万部という途轍もないセールス記録を打ち立てた大ヒットサーガだからこそ生じてしまった懸念に、こうして新たな装いとあわせ、作品単体としての再評価の機会が訪れたのは僥倖というしかない。(解説より)

※何はともあれ、『ジウ』 三部作に負けず劣らず、この 『国境事変』 が面白いということ。三部作では伊崎基子とジウは特筆ものですが、ここにきて、彼らに負けず劣らず光り輝くのが捜査一課の刑事・東弘樹警部補です。その捜査の徹底ぶりと被疑者に対する容赦のなさには目を見張るものがあります。

国境の島・対馬というのもいいし、北朝鮮絡みの話は私の大好物で、はじめの三作よりむしろこちらの方がリアルでおもしろい。そんな気がしなくもありません。まあ、四の五の言わずに読んでみてください。話はそれからです。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆誉田 哲也
1969年東京都生まれ。
学習院大学経済学部経営学科卒業。

作品 「妖の華」「アクセス」「ストロベリーナイト」「ハング」「あなたが愛した記憶」「背中の蜘蛛」「主よ、永遠の休息を」「レイジ」「ジウ」シリ-ズ「もう、聞こえない」他多数

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