『人面島』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『人面島』中山 七里 小学館文庫 2024年12月11日 初版第1刷発行

人の不幸は蜜の味。その匂いに釣られた善と悪のコンビが、人間の業を炙り出す。中山的令和探偵小説!

毒舌人面瘡探偵、絶海の孤島で密室殺人に挑む!

相続鑑定士である三津木六平の肩には、ジンさんという人面瘡が取り憑いている。ある日、六平が派遣されたのは長崎にある島、通称 「人面島」。村長の鴇川行平が死亡したため、財産の鑑定を行うのだ。

相続人である匠太郎と範次郎兄弟は女性をめぐる因縁があり、今もいがみ合う仲。さらにそれぞれバックに島の権力者がつき、一触即発の様相だ。そんななか、島の宮司の継承式が行われた。しかしその最中、匠太郎は密室で死体となって発見され・・・・・・・。毒舌人面瘡のジンさん&ポンコツ相続鑑定士ヒョーロクが、隠れキリシタンの財宝が眠るという島で密室殺人に挑む! (小学館文庫)

まずはじめに。人面瘡と三津木 (二人!? ) の関係はと言いますと、ざっとこんな感じになります。

相続鑑定士の三津木六兵の肩には 「人面瘡」 が寄生しています。六兵は人面瘡を 「ジンさん」 と呼び、友人として誰よりも頼りにしていました。

六平は人が好く、他人の心の奥底までを見通すことができません。事の顛末を詳細に分析し、正しい答えを導き出すという能力にいささか不安な点が見受けられます。その代わりに登場するのが人面瘡のジンさんで、「そろそろ出番か」 となった時、彼は六平の肩口に、「待ってました」 とばかりに現れ出ます。

(たとえば、こんな感じで)

独りごちた時、右肩がむずむずし始めた。

三津木は着ていたシャツのボタンを緩め、右肩を露出させる。現れたのは大小三つの裂け目を持つ瘤だった。

いきなり裂け目が開き、二つの目と長い口の顔になった。
何、愚痴ってるんだ。この役立たず
肩にできた顔は三津木をにやにやと詰った。(前作 『人面瘡探偵』 より)

人面瘡のジンさんは明らかに三津木を見下しています。三津木の名前を逆さにし 「ヒョーロク」 と呼んでいるのもそうですが、(主客転倒も甚だしい) この関係は、なるべくしてなったものでした。

それほど三津木は軟弱で、一方のジンさんが (ただの瘡蓋でありながら) 思いのほか頭脳明晰だということ。ジンさんは常々、迷う三津木に対し、(言い方は辛辣この上ないのですが) 適切かつ効果的なアドバイスを授けます。人知れず密かにジンさんがするそれは、大抵が正鵠を射たものでした。

※肩にできた瘡蓋がものを言う。人の顔によく似たそれは毒舌で、本来 “ご主人様“ として敬うべきところの三津木をバカにして憚りません。それには理由があり、三津木も三津木なのですが、それでいて二人 (!?) は (事あるごとに) 絶妙なコンビネーションを発揮します。

人面瘡探偵が人面島へ行く - 誰がこんな主人公 (あるいはスチュエーション) を思いつくのでしょう。なにげに滑稽で、かつ読んでみたいと思うではないですか。多くは語りませんが、その代わりに、こんな言葉を添えておきます。

天才。5ページ読めば、もう面白い。(前作 『人面瘡探偵』 の文庫本・解説の冒頭にある言葉)

そして、もう一つ。大筋は、横溝的展開 (=横溝正史的な世界)にとてもよく似ています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」他多数

関連記事

『ヒポクラテスの悔恨』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの悔恨』中山 七里 祥伝社文庫 2023年6月20日初版第1刷発行

記事を読む

『さくら』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『さくら』西 加奈子 小学館 2005年3月20日初版 「この体で、また年を越すのが辛いです。ギブ

記事を読む

『しろいろの街の、その骨の体温の』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『しろいろの街の、その骨の体温の』村田 沙耶香 朝日文庫 2015年7月30日第一刷 クラスでは目

記事を読む

『猿の見る夢』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『猿の見る夢』桐野 夏生 講談社 2016年8月8日第一刷 薄井正明、59歳。元大手銀行勤務で、出

記事を読む

『夜が明ける』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『夜が明ける』西 加奈子 新潮文庫 2024年7月1日 発行 5年ぶりの長編小説 2022年

記事を読む

『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男』中山 七里 宝島社 2011年2月18日第一刷 マンションの13階からぶら

記事を読む

『JR上野駅公園口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR上野駅公園口』柳 美里 河出文庫 2017年2月20日初版 1933年、私は

記事を読む

『さいはての彼女』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『さいはての彼女』原田 マハ 角川文庫 2013年1月25日初版 25歳で起業した敏腕若手女性

記事を読む

『さみしくなったら名前を呼んで』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『さみしくなったら名前を呼んで』山内 マリコ 幻冬舎 2014年9月20日第一刷 いつになれば、私

記事を読む

『私に付け足されるもの』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『私に付け足されるもの』長嶋 有 徳間書店 2018年12月31日初版 芥川賞、大

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『友が、消えた』(金城一紀)_書評という名の読書感想文

『友が、消えた』金城 一紀 角川書店 2024年12月16日 初版発

『連続殺人鬼カエル男 完結編』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男 完結編』中山 七里 宝島社 2024年11月

『雪の花』(吉村昭)_書評という名の読書感想文

『雪の花』吉村 昭 新潮文庫 2024年12月10日 28刷

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町ゲノム 〈ジウ〉サーガ9 』誉田 哲也 中公文庫 2021

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑