『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文
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『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』(誉田哲也), 作家別(は行), 書評(な行), 誉田哲也
『ノワール 硝子の太陽 〈ジウ〉サーガ8 』誉田 哲也 中公文庫 2018年12月25日 初版発行
反米軍基地デモが全国で激化する中、ひとりの男が殺された。それは -
国すら喰らう巨大な闇 新世界秩序 VS 漆黒の守護天使 歌舞伎町セブン 新宿署の一匹狼 東弘樹警部補 特捜の凄腕 姫川玲子警部補

「ジウ」 から8年 いかに凶悪な罠だとしても、目には、目を - 。それが、彼らの流儀。
沖縄の活動家死亡事故を機に反米軍基地デモが全国で激化する中、新宿署の東弘樹警部補は、「左翼の親玉」 を取調べていた。その矢先、異様な覆面集団による滅多刺し事件が発生。被害者は歌舞伎町セブンにとって、かけがえのない男だった - 。『硝子の太陽Nノワール』 を改題、短篇 「歌舞伎町の女王 - 再会 -」 を収録。解説・友清哲 (中公文庫)
あっという間に残り二冊 (最新刊・単行本 『ジウX』 を除く) となりました。陣内をはじめとする 「歌舞伎町セブン」 の面々もさることながら、ここにきて一段と際立っているのが新宿署刑事・東弘樹警部補の存在です。
犯人確保にかける彼の不断の努力については既に誰もが認めるところですが、物語が進むにつれ、さらにそれに磨きが掛かったように感じられます。東は (捜査にかかる上層部等の意向について) 一切忖度しません。己の信じるままに捜査に臨む彼の姿勢は、時に狂気すら感じさせます。
主な視点の主は、やっぱり東警部補だ。沖縄の反米軍基地デモが活発化する中、東は逮捕された左翼の大物・矢吹近江の取り調べを命じられる。刑事課に所属する東が、なぜ公安案件である左翼活動家を担当しなければならないのか?
一方、時を同じくして発生した、謎の覆面集団による滅多刺し事件。被害者はデモの取材を続けていたフリーライターであり、「歌舞伎町セブン」 のメンバーでもある上岡慎介だった。一見すると無関係に思えるこれらの事件だが、東はやがて、上岡殺害の真相に繋がる重要な手がかりを得ることに - 。
政治要素を舞台装置として巧みに取り入れる手法は、最近の誉田作品では珍しくないが、日米地位協定、ひいては日米安保についての深い考察を孕むこの物語。現実と地続きの世界で繰り広げられる東と歌舞伎町セブンの共闘は、まさしく 〈ジウ〉 サーガの醍醐味に満ちている。
そしてあらためて驚かされるのは、今や誉田一座にとってかけがえのない存在であるはずの 「歌舞伎町セブン」 から、あっさりと “殉職者“ を出してしまっている点だ。
こと誉田作品においては、人気キャラだからまず死ぬことはないとか、死んだように見えても実は生きているだろうとか、そんな甘っちょろい救済策は期待できない。いつ誰がこの舞台から退場してしまうのかは、本を閉じるまでわからないのだ。(後略)
先ほど、〈ジウ〉 サーガはまだまだ継承されていくと記したが、それは読者が想定している形であるとは限らない。むしろ誉田哲也という作家は、我々の予想を積極的に裏切ってくるに違いない。つまりは歌舞伎町セブンを支える陣内とて、決して安穏としてはいられないわけだ。(解説より)
ж「歌舞伎町で暗躍する伝説の殺し屋集団を描いた 『歌舞伎町セブン』 は、いわば誉田哲也版・必殺仕事人というべきシリーズ」 です。この 『ノワール』 でも同様で、「晴らせぬ恨みを晴らす」 彼らの闇の仕事を篤とご堪能ください。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆誉田 哲也
1969年東京都生まれ。
学習院大学経済学部経営学科卒業。
作品 「妖の華」「アクセス」「ストロベリーナイト」「ハング」「あなたが愛した記憶」「背中の蜘蛛」「主よ、永遠の休息を」「レイジ」「ジウ」シリ-ズ「もう、聞こえない」他多数
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