『ついでにジェントルメン』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『ついでにジェントルメン』柚木 麻子 文春文庫 2025年1月10日 第1刷

美食 整形 貧乏 離婚 不倫 なにがあろうとロマンチックに猪突猛進! 胸のモヤモヤを吹き飛ばす7つの物語

なぜ、私たちは社会と噛み合わないの? 分かるし、刺さるし、救われる - 自由になれる7つの物語。

編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性・・・・・・・などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。(文藝春秋 BOOKS より )

慎ましくも逞しく生きる女性たちの奮闘を中心に - そして 「ついでにジェントルメン」 ということです。

たとえば、

狙った女子をオトすため男たちが満を持して訪れる高級鮨屋に、突如として現れたスウェット姿の母親と赤ん坊。なりふり構わず好みの注文を重ねる母親に辟易する男性客の傍らで、(男性客に誘われて来た) 女性客たちは豪胆な彼女に見惚れていき・・・。(「エルゴと不倫鮨」)

というように、

雰囲気は丸つぶれで、段々と豪胆さを増す母親に惹かれていく女性たちに対し、男たちは何ら打つ手がありません。案の定、彼女たちは (その後の男たちの目論見を半ば予想してはいたものの) いまさらそんな気分になれもせず、さっさと帰ってしまうのでした。

※もしかすると、男性は読まない方がいいかもしれません。読むなら、相応の覚悟をもって読んでください。

作品中 - 本当は 「彼」 のことが書きたかったのではないかと思うくらい - ちらちら 「菊池寛」 が登場します。はてさて、菊池寛とジェントルメンの間にはどんな因果があるのでしょう? それも言うに事欠いて 「ついでに」 とは、まことに失礼なことではないですか。(ヒント:小説中に、「文藝春秋」 の話が出てきます)

この本を読んでみてください係数 85/100

◆柚木 麻子

1981年東京都世田谷区生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒業。

作品 「終点のあの子」「本屋さんのダイアナ」「ランチのアッコちゃん」「伊藤くんA to E」「ナイルパーチの女子会」「その手をにぎりたい」「BUTTER」「あいにくあんたのためじゃない」他多数

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