『鑑定人 氏家京太郎』(中山七里)_書評という名の読書感想文
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『鑑定人 氏家京太郎』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(か行)
『鑑定人 氏家京太郎』中山 七里 宝島社 2025年2月15日 第1刷発行
私立鑑定センター VS 警視庁科捜研 食い違う証拠 因縁の戦い 論理と技術で勝算のない裁判を突き崩せ!

圧巻の鑑定サスペンスシリーズ第1弾!
民間の科学捜査鑑定所で所長を務める氏家京太郎。彼のもとに舞い込んだのは、世間を騒がす連続殺人事件の鑑定依頼だった。若い女性三人が殺害され子宮を抜き取られるという猟奇的な事件だが、容疑者の那智は二人への殺人は認め、もう一人への犯行は否認している。那智が三人を殺害したとする検察の鑑定結果に違和感を抱く氏家は再鑑定を試みる。しかし、何者かの妨害が相次いで起きて - 。驚愕の結末が待ち受ける、圧巻の鑑定サスペンス! (双葉文庫)
氏家京太郎は、現在四十四歳。警視庁科学捜査研究所、通称 〈科捜研〉 のOBで、血液・薬品・指紋などをはじめとするあらゆる分野の 「鑑定のプロ」 で、現在は民間の科学捜査鑑定所 〈氏家鑑定センター〉 を設立し運営しています。常々懇意にしている吉田弁護士から、今回彼が依頼を受けたのは、以下のような事件についてでした。
八月に東京都足立区で悽惨な殺人事件が起きた。荒川河川敷で発見された女性の遺体は、腹を真っ二つに切り裂かれ、子宮を含む下腹部が摘出されていたのである。三ヶ月後、埼玉県狭山市の入間川の河原で、さらに年を越した一月に千葉県市川市の河原で、子宮を摘出された女性の遺体が発見された。稀に見る猟奇的な事件に世間は沸き立つが、二月になって都内の医療機関に勤める三十四歳の那智貴彦が逮捕される。現場に残された体液のDNAが那智のものと一致し、彼の部屋から凶器と思しきメスも発見された。
那智は二件の殺人については素直に認めたが、最後の事件には関与していないと供述していた。依頼された吉田弁護士は那智と面会するが、冷静な態度で言動におかしなところはなく、彼の供述に嘘はないように思えた。
吉田は氏家に残された証拠の鑑定を依頼する。だがそれには大きな問題があった。公判前整理手続きで開示された検察側の請求証拠には、たった一ページの鑑定結果通知書しかなかったからだ。つまり警視庁の科捜研は、現場に残留していた体液と、逮捕した那智から採取した体液データとを比較した具体的な手順や詳細を一切記すことなく、DNAが一致したという鑑定結果のみを伝えていたのである。
しかも体液の試料は鑑定に際して全量を消費したというのだ。さらにこの鑑定結果通知書作成の責任者は、氏家と同い年のライバルであり刎頸の友で、現在は科捜研の副主幹の黒木康平だった。自分の知る黒木は鑑定に真摯に取り組む人物である。その彼がなぜこのような手順で済ませたのかと氏家は疑問を抱く。氏家ら弁護側は那智の唾液から彼のDNAを調べることは可能だが、肝心の比較すべき試料がない。たとえあったとしても、氏家と確執のある科捜研がおいそれと渡すはずがないのである。(解説より)
本作の目次はこうです。
一 弁護士と検事
二 無謬と疑念
三 鑑定人と吏員
四 正義と非正義
五 事実と真実
この物語には二組の人間的な対立が描かれています。氏家が科捜研を退職した大きな理由の一つが、黒木との関係でした。二人は同い年、ライバルであり刎頸の友でもあったのですが・・・・・・・。(詳細は物語の中盤以降で明らかになります)
そしてもう一つは、那智の裁判の担当となった谷端検事と吉田弁護士との因縁です。吉田は検事から弁護士に転職したいわゆる 〈ヤメ検〉 で、以前扱ったある裁判での出来事で、互いの感情が今も拗れたままの状態でした。その蟠りが、尚一層状況をややこしくさせます。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。
作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」「人面島」他多数
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