『灼熱』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『灼熱』葉真中 顕 新潮文庫 2025年3月1日 発行

日本は戦争に勝った1946。デマが巻き起こした血まみれの抗争。浅田次郎氏推薦!! 渡辺淳一文学賞受賞作

日本からはるばる海を渡ってきた比嘉勇と現地で育った移民二世の南雲トキオ。ブラジルの入植地で彼らは出会い、親友となった。そして迎えた終戦。祖国大勝利を信じる 「勝ち組」 と敗北を知る 「負け組」 の間で巻き起こった抗争が、二人を引き裂いた。分断、憎悪。遠き異国で日本人が同胞に向ける銃口。ふたりの青年の運命が交わったとき。絶賛を浴び、渡辺淳一文学賞に輝いた、圧巻の群像劇。(新潮文庫)

勝ち負け抗争|第二次大戦後にブラジル日系移民社会で起きた抗争。日本が勝利したと信じる 「勝利派」 と敗戦を認める 「認識派」 が対立。23人もの死者と多数の負傷者が出た。

一九四五年八月十五日、日本が (連合国側からの) ポツダム宣言を受け入れ全面降伏したというニュースは、残念ながら、日本を離れ遠く異国で暮らす移民たちには、必ずしも正確には伝わらなかったようです。「勝った負けた」 の言い合いが、やがて日本人同士の争いになり、多くの死傷者が出たことをあなたはご存じだったでしょうか。

私が勝ち組・負け組の抗争を知ったのは、一九九〇年代に入ってからで、なんという愚行かと当時は呆れたものである。しかし、一九四〇年代のブラジル移民社会を私はもう笑うことができない。勝ち組・負け組の対立を上回る世論の分断が全世界で深刻な問題となっており、SNSでは敵意のぶつけ合いが続いている。議論が交わされているのであればまだしも、相手の言葉には耳を塞いで自身の主張をがなり立てているかのようにしか見えない場合がほとんどだ。単に意見が違うというだけではなく、立場を異にする者はそれだけで自分よりも劣っているのだと嘲笑することも日常的に行われている。この状況は、一九四五年の勇とトキオが陥ったものとどう違うというのだろうか。(解説より)

読むべきは、歴史的事実ともうひとつ、現代に連なる 「教訓」 です。単に昔あった話というのではなく、今を生きる私たちにこそ有意義な、ややもすると陥りがちな人の “弱点“ を教えてくれているような気がします。勇とトキオは “あなたとあなたを想う誰か“ なのかも知れません。

勇が住むことになるのはサンパウロ州の西端に近い植民地・弥栄村である。そこで出会うのが、同い年の移民二世の南雲トキオだ。南雲一家は勇に先行すること十六年、一九一八年にブラジルへとやってきた。移住地での過酷な生活を耐え抜き、今では弥栄村で最大の農園主として成功を収めている。勇とトキオはやがて無二の親友になっていく。

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物語は勇とトキオが交互に視点人物となって進んでいく。二人の運命が分かれてからは両極からそれぞれの見方が語られるため、等身大の視点ながらブラジル移民社会の状況が広範囲に見通せるようになるのである。

同年代の勇とトキオは、生まれた場所が違い血もつながっていないが、義兄弟のようなものだ。『灼熱』 は変形の双子小説なのである。水魚の交わりと言うべき間柄だった二人は、互いの立場が変わったことで相手に近親憎悪のような感情を抱くようになる。勇はトキオであり、トキオは勇なのであり、二人が争うことは我が身を食い合うようなものだ。本人の意志に関わりなく、運命によって両者が引き離されるという点に悲劇の始まりがある。(同解説より)

※国を愛し、国を信じていたからこその出来事だったのだろうと。混乱を極める最中 (さなか) にあって、信じるべきは何なのか。信じられるのは誰なのか - 。裏切ったのは、それが “正義“ に思えたからでした。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆葉真中 顕
1976年東京都生まれ。
東京学芸大学教育学部中退。

作品 「絶叫」「ロスト・ケア」「ブラック・ドッグ」「コクーン」「政治的に正しい警察小説」「凍てつく太陽」「灼熱」「Blue/ブルー」「そして、海の泡になる」他

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