『どうしてわたしはあの子じゃないの』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『どうしてわたしはあの子じゃないの』寺地 はるな 双葉文庫 2023年11月18日 第1刷発行

羨み、傷つき 心揺れる10代。そして年月を超えて踏みだす大人たちの新たな一歩。本屋大賞ノミネート作家が描く、過去と今を繋ぐ感動作

大切なあの人へ特別な一冊を。

いつか田舎の村を出て上京し、自分の人生を切り拓くことを夢見る天。天の幼馴染で、彼女に特別な感情を抱く藤生。その藤生を見つめ続ける、東京出身で人気者のミナ。佐賀の村で同級生だった3人は、中学卒業前、大人になったそれぞれに宛てた手紙を書いて封をした。時は流れ、福岡でひとりで暮らす30歳の天のもとに、東京で結婚したミナから、あの時の手紙を開けて読もうと連絡が来て - 。他者と自分を比べて揺れる心と、誰しもの人生に宿るきらめきを描いた、新しい一歩のための物語。(双葉文庫)

いついかなる時もそうでした。今もそうです。現実世界は、自分の目を通してしか見ることができません。自分の心でしか感じることができません。何億と人がいるのにです。人はたえずひとりで、右往左往しながら生きて行かなくてはなりません。

家が貧しかったので、私は卑屈だったと思います。なぜこんな家の子どもに生まれたのだろうと、何度思ったことでしょう。少しは勉強が出来たのですが、そんなことは何の足しにもなりません。母の手作りのズボンをはいて学校へ行くのが嫌で嫌で仕方なく、それでも言い出せずにいたことを今も憶えています。

「どうしてわたしはあの子じゃないの」
タイトルの問いに答えがあるとするなら、作中である人物が語る 「あなたはあなたにしかなれないのよ。どこにいたって」 がそれにあたるのだろう。だが、そんなわかりやすい模範解答はあまり重要ではない。SNS映えするキレのいいフレーズで物事を一刀両断して気持ちよくなるために、この小説が、そして多くの (すべての、とは言えない) 小説があるわけではない。寺地さんの作品に登場する人たちの言葉が胸を打つのは、その一言を口にするまでの彼らの人生、それを裏打ちする真摯な生き方とフェアな目線を、作者がつとめて注意深く尊重しようとしているからだ。

自分はかわいそうで弱い 「特別」 な存在であり、周りはみんなそれ以外の 「嫌なやつ」 だと思うのは気持ちがいい。現にそういった物語も量産されている。今作にも嫌な大人および大人予備軍が大勢出てくるし、作中主体となる天もミナも藤生も、そこから来る苦しみや違和感から目を逸らさず、その理不尽さを痛々しいほど誠実に言語化してみせる。だが彼らにはそれ以上に、自分の欺瞞に対して目を向ける公正さがあり、私はそこが好きだ。

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一方、作中を通底するフェアな眼差しは、見過ごされがちな 「静かで良きもの」 にも向けられる。間接的に天・ミナ・藤生の再会のきっかけとなる青年団の遠藤さんは、旧弊な人が多い村で器用に立ち回りつつも、子供たちに 「俺は理解者だ」 という押しつけがましい顔はしない。だが、そのまっとうな態度はさりげなく彼らの呼吸を楽にしつづけてきた。その積み重ねの描写があるからこそ、後半で彼が口にする言葉が説得力を伴い、かつて子供だった彼らを、そして読者をも救ってくれる。この台詞があればいいのではなく、ずっと静かに真面目だった遠藤さんが言うからこそ、この台詞は 「良いもの」 になるのだ。(解説より/伊藤朱里・作家)

※遠藤さんはいい。遠藤さんがいいと思います。中学生の “あるある“ で、あなたにも、似た同級生がきっといたことでしょう。結論。人生はやっぱり、思うほどうまくはいきません。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆寺地 はるな
1977年佐賀県唐津市生まれ。大阪府在住。
高校卒業後、就職、結婚。35歳から小説を書き始める。

作品 「ビオレタ」「夜が暗いとはかぎらない」「大人は泣かないと思っていた」「正しい愛と理想の息子」「わたしの良い子」「彼女が天使でなくなる日」「水を縫う」他多数

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