『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文
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『春のこわいもの』(川上未映子), 作家別(か行), 川上未映子, 書評(は行)
『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行
「わたし、忘れたことないからね」

世界が待ち望んだ傑作短編集 六人の男女が体験する甘美きわまる地獄めぐり
世界が一変してしまったあの春、私たちは見てはいけないものを覗きこんでしまった - 。持てる者と持たざる者をめぐる残酷なほんとう。死を前にして振り返る誰にも言えない秘密。匿名の悪意が引き起こした取りかえしのつかない悲劇。正当化されてゆく暴力的な衝動。心の奥底にしまい込んだある罪の記憶。ふとしたできごとが、日常を悪夢のように変貌させていく。不穏にして甘美な六つの物語。(新潮文庫)
コロナ禍にあって、それとは別のとても 「怖い話」 が六話、綴られています。特筆すべきは、躊躇や容赦が一切ないということ。(相手を詰る)その辛辣さは 「危うく身悶えしてしまうほどの快感」 (下記書評より)なのですが、それは同時に、自分をも貶めることになりかねません。気を付けて読んでください。自分を指して言われているような、そんな気分になるかもしれません。
◎目次
青かける青
あなたの鼻がもう少し高ければ
花瓶
淋しくなったら電話をかけて
ブルー・インク
娘について
制御できない本能が不意を打つ 評者:江南亜美子/朝日新聞掲載:2022.4.16
『ヘヴン』 が英ブッカー国際賞の最終候補となり、世界的評価も高まる著者の最新刊は、コロナ禍が迫りくる東京を描いた六つの短編から成る。いずれも日常が崩壊する直前の不穏さが兆しているが、パンデミックはあくまで後景にあり、登場人物たちは個別の気がかりにとらわれる。直視せず否認してきたものに、不意打ちされるのだ。
「あなたの鼻がもう少し高ければ」 は、美容整形の資金のため 「ギャラ飲み」 を志願する女子学生が、容姿に見合わないその目論 (もくろ) みを徹底的に嘲罵される。反ルッキズムの理念とは対照的に、美醜をめぐる文化的価値観から逃れられない人の欲望と現実。無意識にまで刷り込まれた檻 (おり) の存在を一編は浮かび上がらせる。
「ブルー・インク」 ではプラトニックな関係の女子生徒からの大事な手紙をなくした男子高校生が、彼女と夜の学校に忍びこむ。真空のような非日常が立ち上がるなか、「僕」 が覚える性衝動はリアルか幻想か。他者との距離感が軋 (きし) むように変化した、感染症蔓延 (まんえん) 初期の感覚が甦 (よみがえ) る。
なかでも出色は 「娘について」 の一編だ。女性小説家にかつての友人から突然、電話がある。一時同居もし、青春時代をともに過ごした相手だが、親がかりで女優を目指す裕福な友にはつねに彼我の経済格差を感じていた。予想外の電話は記憶の深層へ意識を向かわせる。嫉妬と虚栄心からあのとき自分は彼女に何をしたのだろう。何者にもなれないことの絶望を、彼女とその母親にぶつけて憂さを晴らしたのではなかったか。
「それは全身に鳥肌が立って、危うく身悶 (みもだ) えしてしまうほどの快感だった」。こうして過去の愚かな自身の亡霊が立ち現れ、現在の実存を脅かすのである。
著者は本書で、個人の強迫観念と不安感を鮮明に描き出した。収束の見えない感染症も怖いが、本当に怖いのは制御できない人間の野性の本能なのだと、読者にずどんと突きつける。(「好書好日」 より全文)
※現在進行形で活躍中の数多くの女性作家の中でもひときわ美形で有名な川上さん。「貴女ならどうよ? 」と訊かれたら、貴女は何と答えるのでしょう。まるで見当違いの問いと承知で、それでも訊いてみたいと思うのは、それほど貴女が突出して美麗だからです。 美麗は、何かの 「重し」 になりますか?
この本を読んでみてください係数 85/100

◆川上 未映子
1976年大阪府大阪市生まれ。
日本大学通信教育部文理学部哲学科入学。(1996年)
作品 「乳と卵」「ヘヴン」「わたくし率 イン 歯-、または世界」「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」「すべて真夜中の恋人たち」「愛の夢とか」「夏物語」「黄色い家」他多数
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