『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
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『孤蝶の城 』(桜木紫乃), 作家別(さ行), 書評(か行), 桜木紫乃
『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行
夜のクラブ、芸能界 - スポットライトに照らされて 桜木紫乃史上、最強の主人公

あたしの嘘はすべてお金に変わるの
カーニバル真子としてクラブや芸能界で活躍する秀男は、モロッコで手術を受け、念願だった 「女の体」 を手に入れた! 帰国後の凱旋ショーは大成功をおさめるが、気まぐれな世間の注目を集め続けることは難しい。歌手デビューや地方回り、話題づくりのための結婚などあの手この手で奮闘するが、その先に待っていたのは!? 出会い、別れ、新たな始まり -。読んだ人の運命を変える圧倒的な物語。(新潮文庫)
何か所ものパーツを整形し、維持するだけでも大変だと思うのですが、その上 「陰茎を切って造膣 (ぞうちつ) 」 するのは並々ならぬ勇気が必要で、そうまでして女性になりたいと願う秀男の気持ちを思うと、これまで (同様の人たちを) 興味本位でしか見てこなかった自分が恥ずかしく情けなくもあります。
秀男の覚悟と切実さは本物で、たとえ 「偽の」 女性であったとしても、彼は (彼女は) それを隠そうとはしません。堂々と 「売り」 にして恥じることがありません。見た目以上にパワフルで、滅多なことでは折れません。この先終生 「カーニバル真子」 でいることに、己の運命を賭けたのでした。
いやはや、何という凄みであったことか。『孤蝶の城』 のことである。本書は、『緋の河』 (2019年刊) の続編となる。しかし、先行作を呑み込んで、さらに一段飛翔した世界を見せてくれた。
今や数多いオネエタレントのパイオニア、カルーセル麻紀をモデルにしている。カルーセルも、桜木紫乃も、同じく北海道釧路市の出身だ。『緋の河』 の単行本が刊行された時にインタビューしたのだが、1960年代から芸能界でも活躍していたカルーセルは、桜木の幼い頃の釧路ではあいさつ代わりに話題に上っていたという。
「大人は下世話な話ばかりしていた」 と教えてくれた。けれど、「あれだけ噂話をしていたのは、好きだったからなんだと思えるくらい私も大人になって、この人を書かなければ前に進めない」 と感じるようになっていった。「誰にも書かせたくない」 と思った初のキャラクターだったという。
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モロッコでの性転換手術、マスコミとの丁々発止のやり取り、好きな男との出会いと別れ、タレントを使い捨てする事務所に父との確執などエピソードは盛りだくさん。実際にカルーセル麻紀との交流があった歌手や女優が頭をよぎるが、そこに拘泥するのは意味がない。小説で命を与えられた登場人物たちが息づいて、カーニバル真子の世界を彩っている。ディテールは濃やかで緻密。こちらの気を逸らさない。
例えば、モロッコで術後が思わしくない時に現れる怪しい医者や、急きょお鉢が回ってきた暴力団の新年会での立ち居振る舞いなど、主軸に大きくは影響しない部分もむやみに印象に残る。新年会で真子が見せるストリップの場面は、短い描写なのにストリップという仕事を語りながら妖艶さを漂わせる。さすがストリップを観るのが趣味と公言し、ストリッパーを描いた小説 『裸の華』 (2016年刊) も手がけたことのある作家の手腕だ。(解説より)
※『緋の河』 は、主人公の平川秀男 (後のカーニバル真子) が、「春になれば小学校に入学するという昭和24年 (1949年) の年明けから、二十代になって芸能界デビューにたどり着くまで」 が描かれています。興味がある方は、ぜひご一読を。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」「ブルース Red」他多数
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