『長くなった夜を、』(中西智佐乃)_書評という名の読書感想文
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『長くなった夜を、』(中西智佐乃), 中西智佐乃, 作家別(な行), 書評(な行)
『長くなった夜を、』中西 智佐乃 集英社 2025年4月10日 第1刷発行
三十八歳、独身、派遣社員。私には何もない。どうすべきか教えてほしい。

親からの 「教育」 という形の 「暴力」。閉ざされた日常。家族というコミュニティーが抱える闇を露わにした衝撃の問題作。
コールセンターで派遣社員として働く関本環。両親はともに高校教師で、環は幼いころから厳格な父の教えに従い生きてきて、38歳になった現在も夜9時の門限を守っている。そんな環とは対照的に、両親に反発し自由奔放な妹の由梨は、離婚した夫との間に公彦という男児がおり、実家に戻ってパートとバイトを掛け持ちしながら暮らしている。環はそんな妹に代わり、公彦の世話をしているうち、居なくてはならないかけがえのない存在になっていた。そんな時、由梨は両親と決別し、実家を出てマンションで暮らし始める。公彦の様子が気になり、両親が寝静まった後、毎夜のように妹のマンションを見に行く環だったが、由梨が公彦を置いて男と出かけて行くのを目撃してしまう。心配の果てに、環は以前父が放った 「ある言葉」 に突き動かされ、突発的な行動に出てしまい--。家族というコミュニティーが抱える闇を露わにした問題作。(集英社)
買ったその日のうちに一気に読みました。読まされてしまった、という感じ。読んでいる間中気になったのは、置かれている (かなり深刻な) 状況下で、そのうち環が 「どうにかなってしまうのではないか」 ということでした。
ちゃらんぽらんに見えても、打たれ強いのは間違いなく妹の由梨の方です。由梨とは正反対の姉の環 - 彼女はいけません。勉強はそこそこできたのかもしれませんが、逆にそれが災いで、大きな思い違いをしたまま大人になった人の典型のように感じられます。
親も悪いのですが、親だけが悪いわけではありません。それは彼女もきっとわかっているのだと思います。環は、時に “狂気“ に至ります。キレると、歯止めがきかなくなってしまいます。根が不器用な彼女は、自分で自分をうまくコントロールすることができません。
後半で綴られる、迫りくる狂気は必読です。こんな小説を書かざるを得なかった著者の内実を知りたいと思いました。登場するすべての人たちは、その後、救われたのでしょうか。
※不思議なことに、この小説は “二人称“ で書かれています。主人公 (環) の一人称でよいと思うのですが、あえてそうしなかった理由がわかりません。何がどう違うのか、誰か教えてください。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆中西 智佐乃
1985年大阪府生まれ。大阪府在住。
同志社大学文学部卒業。
2019年 「尾を喰う蛇」 で第51回新潮新人賞を受賞。著書に 『狭間の者たちへ』 がある。本書が二冊目の単行本となる。
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