『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

あなたの時間を少しだけ、小説とともに。100分間で楽しむ名作小説

少し前まではのどかな武蔵野の風情を色濃く残していたG町の繁華街に、夜になると菫色の灯りがともる 「黒猫」 という酒場があった。つい一週間ほど前に経営者が代わり、無人のはずの店の裏手で、何者かが地面を一心に掘っているところに出くわした巡査はそこで腐乱屍体を発見する。金田一耕助は世にも難解な顔のない屍体の謎を見破ることができるのか。(角川文庫)

(事の発端をさらに詳しく)

1947年 (昭和22年) 3月20日深夜、東京近郊の武蔵野の面影が多分に残るG町の派出所詰めの巡査・長谷川は、巡回中に酒場 「黒猫」 にさしかかる。そこは1週間前から空き家同然となっているはずだが、その裏庭にて隣接する寺の若い僧・日兆が穴を掘っているところを目撃する。不審に思った長谷川が穴の中を確かめると、そこには腐乱しかけた女の屍体があり、しかもその顔の部分は完全に崩壊し、容貌すら判別できない。

検死の結果、死因は頭の傷で、他殺である。かもじ (義髪) をつけた若い女としかわからない。さらに、同じ場所に黒猫の死体が埋められていた。「黒猫」 には黒猫が飼われていたから、当然それかと思われたが、直後に、黒猫が健在であることが確認された。(以下略/wikipediaより)

さてさて、如何にもこの人 (横溝正史) らしい妖しげな事件の始まりで、昔読んだ 『獄門島』 や 『悪魔が来りて笛を吹く』 『犬神家の一族』 などを懐かしく思い出しました。映画を観にも行きました。客席は満杯で、席と席との間の階段に腰かけて観たのを憶えています。

本作は、以前読んだ本ほどには怖くないのですが、“気味の悪さ“ は十分で、そここそを堪能してもらえればと。古い時代の話ではありますが、抵抗なく面白く読めるはずです。

発表時に掲載された作者の言葉では、出来るだけドスぐろい犯罪をドスぐろく書こうとした旨が記されている。作品冒頭に推理小説のトリックについての言及があり、顔のない死体 への挑戦をテーマとして、単なるそのトリックの利用だけではなく、さらに一捻りを加えた作品に仕上がっている。そこに表題にもある黒猫が作品全体のムードを盛り上げている。(同上)

さあ、名探偵・金田一耕助の登場を待つまでもなく、あなたは 「世にも難解な顔のない屍体の謎」 を見破ることができるでしょうか? 空いた時間に、ぜひとも挑戦してみてください。 

この本を読んでみてください係数 85/100

◆横溝 正史
1902年、神戸市生まれ。旧制大阪薬専卒。

26年、博文館に入社。「新青年」 「探偵小説」 の編集長を歴任し32年に退社後、文筆活動に入る。信州での療養、岡山での疎開生活を経て、戦後は探偵小説雑誌 「宝石」 に 『本陣殺人事件』 『獄門島』 『悪魔の手毬唄』 などの名作を次々と発表。映画 「犬神家の一族」 で爆発的横溝ブームが到来した。今なお多くの読者の支持を得る。81年、永眠。

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