『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ), 作家別(は行), 書評(た行), 福田ますみ
『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』福田 ますみ 新潮文庫 2017年11月10日 16刷
「史上最悪」 のいじめ教師を生んだ驚愕の事件! でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男

「早く死ね、自分で死ね。」 2003年、全国で初めて 「教師によるいじめ」 と認定される体罰事件が福岡で起きた。地元の新聞報道をきっかけに、担当教諭は 『史上最悪の殺人教師』 と呼ばれ、停職処分になる。児童側はさらに民事裁判を起こし、舞台は法廷へ。正義の鉄槌が下るはずだったが、待ち受けていたのは予想だにしない展開と、驚愕の事実であった。第六回新潮ドキュメント賞受賞。(新潮文庫)
志し高く将来教師になって頑張ろうと思っている人にはできれば読ませたくない、“あまりな“ 一冊です。問題こそ解決しますが、そこに至るまでの時間や心労を思うと (とてもではないですが) 手放しでは喜べません。モンスターペアレントとのつきあいは、ひとつ間違うと、教師にとって「命取り」 になりかねません。
「保護者」 とは、そうまでして “奉るべき“ 存在なのでしょうか? そこまで強く “主張“ が通るのでしょうか。市の教育委員会はどうなのでしょう? 学校へ出向き、直接当事者と話をしたりはしているのでしょか。
本来教師を守るべき立場であるはずの校長や教頭は、明らかに 「確信犯」 です。たとえどんな事情があったにせよ、その人格を疑わざるを得ません。そして何より、中立公平な仕事をしているとばかり思っていたマスコミこそが最低です。
序章 「史上最悪の殺人教師」 より、事の経緯を抜粋して紹介します。
火付け役は朝日新聞である。平成15年6月27日の西部本社版に、「小4の母 『曾祖父は米国人』 教諭、直後からいじめ」 という大きな見出しが躍った。そのショッキングな内容に地元のあらゆるマスコミが後追い取材に走ったが、その時点ではまだ、単なるローカルニュースに留まっていた。
これを一気に全国区にのし上げたのは、同年10月9日号の 「週刊文春」 である。「『死に方教えたろうか』 と教え子を恫喝した史上最悪の 『殺人教師』」。目を剝くようなタイトルと教師の実名を挙げての報道に全国ネットのワイドショーが一斉に飛びつき、連日、報道合戦を繰り広げる騒ぎとなった。
ж
件の男性教諭は、平成15年5月当時、福岡市の公立小学校で教鞭を取っていた。
発端は家庭訪問である。彼は、受け持っていた9歳の男児の髪が赤みがかっていることに目をつけ、対応した母親に、「〇〇君は純粋ではないんですよね」 と切り出した。そして、男児の曾祖父がアメリカ人 (朝日新聞などの第一報では、「母親の曾祖父が米国人」) であることを聞き出すや、「〇〇君は血が混じっているんですね」 と言い、延々とアメリカ批判を展開した。(略)不幸なことに、別の部屋にいた男児は、教諭がいたダイニングルームの近くを通りかかり、教諭の発した 「穢れた血」 という言葉を聞いてしまう。男児は、「穢れた」 という言葉の意味がわからず、翌日、小学校の図書室に行き辞書で調べた。
その意味を知った男児は子供心に衝撃を受け、母親にしきりと、「僕の血は汚いと? 皆と同じ赤いのに、何で汚いと? 」 「顕微鏡で見たらわかると? うつらんと? 」 と聞いてくるようになった。母親は、男児にそう聞かれる度にやりきれない思いにかられた。
そしてこの家庭訪問の翌日から、男児に対する教諭の、言語に絶する虐待が始まった。
(この後、教諭のした数々の虐待の詳細、男児の体調の推移、学校や市教育委員会の対応等の記載が続きます)
ここに至って男児の両親は、PTSDを理由に、教諭と福岡市を相手取って約1300万円 (拡張申し立てにより、最終的には約5800万円) の損害賠償を求める民事訴訟を10月8日、福岡地裁に起こした。(略)
12月5日、マスコミ注視の中で第1回口頭弁論が行われた。以後、法廷の場で、教師による児童虐待という前代未聞の事件の全貌が暴かれ、この 「殺人教師」 に正義の鉄槌が下されるはず、だったのである。
ところが裁判は、大方の予想に反して、回を重ねるごとに思いもよらない展開を辿り、驚愕の事実が次々と明らかになっていった。
※この事件の両親が (9歳の息子を犠牲にしてまで) したかったのはいったい何だったのか。読んでいるあいだ中それが気になり、そのことばかりを考えていました。そして今もその答えはわかりません。お金目当ての他に、きっと何かあるはずなのですが・・・・・・。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆福田 ますみ
1956年横浜市生まれ。
立教大学社会学部卒業。
作品 専門誌、編集プロダクション勤務を経て、フリーに。犯罪、ロシアなどをテーマに取材、執筆活動を行っている。『でっちあげ』 で第六回新潮ドキュメント賞を受賞。他の著書に 『スターリン 家族の肖像』 『暗殺国家ロシア』 『モンスターマザー』 などがある。
関連記事
-
-
『Blue/ブルー』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
『Blue/ブルー』葉真中 顕 光文社文庫 2022年2月20日初版1刷 ※本作は書
-
-
『いやしい鳥』(藤野可織)_書評という名の読書感想文
『いやしい鳥』藤野 可織 河出文庫 2018年12月20日初版 ピッピは死んだ。い
-
-
『てらさふ』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
『てらさふ』朝倉 かすみ 文春文庫 2016年8月10日第一刷 北海道のある町で運命的に出会っ
-
-
『だれかのいとしいひと』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『だれかのいとしいひと』角田 光代 文春文庫 2004年5月10日第一刷 角田光代のことは、好きに
-
-
『月』(辺見庸)_書評という名の読書感想文
『月』辺見 庸 角川文庫 2023年9月15日 3刷発行 善良無害をよそおう社会の表層をめく
-
-
『だから荒野』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『だから荒野』桐野 夏生 文春文庫 2016年11月10日第一刷 46歳の誕生日、夫と2人の息子と
-
-
『ケモノの城』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文
『ケモノの城』誉田 哲也 双葉文庫 2021年4月20日 第15刷発行 綺麗なものにだけ目を
-
-
『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文
『彼女は頭が悪いから』姫野 カオルコ 文藝春秋 2018年7月20日第一刷 (読んだ私が言うのも
-
-
『てとろどときしん』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『てとろどときしん』黒川博行 角川文庫 2014年9月25日初版 副題は 「大阪府警・捜査一課事
-
-
『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その2
『ブラックライダー』(その2)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 書評は二部構成