『イエスの生涯』(遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『イエスの生涯』遠藤 周作 新潮文庫 2022年4月20日 75刷

巨匠 スコセッシ監督 『沈黙に続き映画化 世界が認めた遠藤文学

英雄的でもなく、美しくもなく、無力であり、誤解と嘲りのなかで死んでいったイエス。裏切られ、見棄てられ、人々の落胆と失望の中、みじめに斃れたイエス。彼はなぜ十字架の上で殺されなければならなかったのか? - 幼くしてカトリックの洗礼を受け、神なき国・日本の信徒として長年苦しんできた著者が、過去に書かれたあらゆる 「イエス伝」 をふまえて甦らせた、イエスの 〈生〉 の真実。(新潮文庫)

これまでの人生で、私はたった一人だけ、カトリック信者だという人と知り合ったことがあります。大学時代の同級生で、彼は大阪出身の、 穏やかすぎるくらい穏やかな人物でした。あれから数十年経つのですが、「イエス」 と聞いて真っ先に思い出すのは、今もって彼のことです。彼以外に、私はキリスト教の信者と知り合ったことがありません。

私が住んでいるのは、今でこそ〇〇市✕✕町と表記しますが、それまでは〇〇町大字✕✕で、周囲が田んぼに囲まれた典型的な田舎の “集落“ です。お寺が四つあり、割と大きな神社が一つあります。ほとんど全部の家が神社の氏子で、四つあるお寺のどこかの檀家であるわけです。

極々僅かですが、例外はあります。が、さすがに 「キリスト教」 の信者だという人は知りません。探せばいるのかもしれませんが、少なくとも私の周りにはいません。いたためしがありません。入信を促すための、そもそもの “土壌“ がありません。

とても遠くの、どこか違う国の話としか思えないような 「イエス」 という名の一人の青年の生涯について、あなたは興味が持てるでしょうか? 何となく知ったつもりではいるのでしょうが、実はその生涯についてを問われれば、おそらく何も答えられないのではないでしょうか。

多くの人がそうだろうと。よほど特別な何かがない限り、日本で宗教といえば 「仏教」 で、遠藤氏とて、間違いなくそうだったろうと。何が氏を駆り立てたのか? イエスのどこに魅入られたのか。それを知りたいと思いました。

「きっかけ」 は、こうでした。

氏は大正十二年 (一九二三年) 東京で生まれ、三歳のとき父の転勤で満州関東州、大連に移り、十歳のとき父母の離婚のために母親につれられて神戸にもどってくる。そのとき神戸に住んでいた伯母がカトリック信者だったために、氏も母親と一緒に夙川の教会に通うことになり、やがて母親と共に氏もカトリックの洗礼をうけることになる。(後略)

「もし、あの時、私が別の境遇にあったなら洗礼も受けなかったろうし、また生涯、この基督 (キリスト) などという縁遠い洋服など着なかっただろうと私はしばしば悩んだ。だがその時でさえ、私はその洋服を結局はぬぎ棄てられなかった。私には愛する者が私のためにくれた服を自分に確信と自信がもてる前にぬぎすてることはとてもできなかった。それが少年時代から青年時代にかけて私をともかく支えた柱となった。

後になって私はもうぬごうとは思うまいと決心をした。私はこの洋服を自分に合せる和服にしようと思ったのである。それは人間は沢山のことで生きることはできず、一つのことを生涯、生きるべきだと知ったからである。」

『イエスの生涯』 において遠藤氏が示したイエス像こそが、長い歳月かかって自分の身体に合うように氏が仕立て上げた和服に他ならない。(解説より)

※解説中に - この 『イエスの生涯』 を評伝とみるか歴史小説とみるかは、意見のわかれるところであろう - という文章があります。思うほど読み易い本ではありません。読み切るには、相応の努力と忍耐が必要です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆遠藤 周作
1923年東京生まれ。96年、病没。
慶應義塾大学仏文科卒業。

作品 「白い人」「海と毒薬」「沈黙」「深い河」「侍」「スキャンダル」他多数。’95 (平成7) 年、文化勲章受章。

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