『俺はまだ本気出してないだけ』(丹沢まなぶ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『俺はまだ本気出してないだけ』(丹沢まなぶ), 書評(あ行)

『俺はまだ本気出してないだけ』丹沢 まなぶ 小学館文庫 2013年4月10日第一刷

元々は青野春秋の漫画が原作で、先に映画になってます。堤真一が四十路にして夢を追いかけるおっさん・大黒シズオを演じて話題になった映画です。

その映画を完全ノベライズしたのがこの小説です。※原作漫画はコチラ→俺はまだ本気出してないだけ コミック 1-5巻 セット (IKKI COMIX)

もう、笑えばよいと思いますよ。そして、あぁこんなおっさんもいるんだと思って少し安心してもいいでしょう。

世のサラリーマンなら一度や二度は必ず口にした、あるいは心で呟いた憶えがある台詞ですよね。
僅かばかりのエリートサラリーマン以外の、敢えて言いますが”しがない”サラリーマンなら思わないわけがありません。

言い方を変えると、世のしがないサラリーマンは「俺はやるときにはやる。まだ本気モードじゃないだけなんだ」という気持ちを活力にして日々仕事に励んでいるわけです。
そうでも思わないと、やってられないじゃないのよ!

なぜあいつばかりが褒められる? なぜ俺より出世が早いのよ?...要領ばかりよくて、実際にやってるのは俺ですよ俺!...なんて思ったことありません?
上司の理不尽な叱責にじっと耐え忍ぶふりをして、今日は会社が終わったら直ぐに帰って好きな映画をたっぷり観よう、ちょっとの我慢、我慢...なんてことないですか?

いいんです、そんなこと思っても全然いいのです。なぜって、みんなホントは同じようなこと考えてるんですから。

たぶん、その日一日私はあまり調子良くなかったんだと思います。でなければ、今日が昨日とほとんど変化なく空気のごとく過ぎ去った日の仕事帰りだったかも知れません。
何を買う予定もないまま書店に立ち寄って、ふと見つけたのがこの本でした...『俺はまだ本気出してないだけ』
特段の事情があったわけでもなく、何となくブルーでとりとめのないときにこのタイトルはなかなかに刺激的で、安い文庫だったのでふらりと買いました。

40を過ぎたダメなおっさんが、一念発起してマンガ家になる話です。

大黒シズオ、41歳。バツイチの子持ち。

“本当の自分”を探すために会社を辞めたものの、朝からゲーム三昧で父親の志郎には怒鳴られ、高校生の娘・鈴子には借金する始末。
バイト先のハンバーガーショップではミスを連発、年下の店長に説教される毎日です。

そんなある日、ついにシズオは自分の生き方を見つけたと宣言するのです。「俺、マンガ家になるわ」

編集部の村上。幼なじみの宮田にアルバイト仲間の市野沢。そして、シズオの将来を憂う志郎とシズオを静かに見守る鈴子。

周囲の人たちにはシズオはどう映っているのでしょう。シズオとは別に、周囲の人たちにもそれぞれの人生があります。ここはしっかり読ませます。

シズオの辞書に「落ち込む」という文字はありません。出版社へ持ち込む原稿は当初全く相手にされませんが、シズオは決して諦めません。

婉曲にダメ出しされても、シズオにとってはあくまで教育的指導であり激励なのでした。根拠のない、底抜けのポジィティブさに苦笑いするしかありません。

それでも彼は最後に、デビューの足がかり、のようなものを掴んで明るく小説は終わっているのです。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆丹沢 まなぶ

1976年神奈川県生まれ。

作品 「シャカリキ!」「罪とか罰とか」「山形スクリーム」「小説MAJOR」など

◇ブログランキング

応援クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『オブリヴィオン』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『オブリヴィオン』遠田 潤子 光文社文庫 2020年3月20日初版 苦痛の果てに、

記事を読む

『異類婚姻譚』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『異類婚姻譚』本谷 有希子 講談社 2016年1月20日初版 子供もなく職にも就かず、安楽な結

記事を読む

『ifの悲劇』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『ifの悲劇』浦賀 和宏 角川文庫 2017年4月25日初版 小説家の加納は、愛する妹の自殺に疑惑

記事を読む

『緋い猫』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『緋い猫』浦賀 和宏 祥伝社文庫 2016年10月20日初版 17歳の洋子は佐久間という工員の青年

記事を読む

『噂の女』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『噂の女』奥田 英朗 新潮文庫 2015年6月1日発行 糸井美幸は、噂の女 - 彼女は手練手

記事を読む

『いのちの姿/完全版』(宮本輝)_書評という名の読書感想文

『いのちの姿/完全版』宮本 輝 集英社文庫 2017年10月25日第一刷 自分には血のつながった兄

記事を読む

『青い壺』(有吉佐和子)_書評という名の読書感想文

『青い壺』有吉 佐和子 文春文庫 2023年10月20日 第19刷 (新装版第1刷 2011年7月

記事を読む

『男ともだち』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『男ともだち』千早 茜 文春文庫 2017年3月10日第一刷 29歳のイラストレーター神名葵は関係

記事を読む

『入らずの森』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『入らずの森』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2016年12月31日第6刷 陰惨な歴史

記事を読む

『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文

『アンソーシャル ディスタンス』金原 ひとみ 新潮文庫 2024年2月1日 発行 すぐに全編

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑