『踊りつかれて』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『踊りつかれて』塩田 武士 文藝春秋 2025年5月25日第1刷発行

あまりに儚く美しい万感胸に迫るラストシーン 『罪の声』 『存在のすべてをの著者による最新作

物語は不気味な 「宣戦布告」 で幕が開く。
ブログでネット社会を鋭く批判していく男が、途中で二人の芸能人の名を挙げる。一人はSNSの誹謗中傷により命を落とした令和の人気お笑い芸人、もう一人はバブル期の写真週刊誌の餌食になって姿を消した昭和の歌姫。男は新旧の情報被害で不幸に陥った二人に同情し “加害者“ への憎しみを露わにする。そして最後に、独自の方法で入手した “加害者“ の個人情報、八十三人分を公表すると宣言するのだった。

直木賞の受賞作発表の翌日に書いています。残念ながら受賞は叶いませんでした (というか、審査の結果は 「該当作なし」 で、じつに27年ぶりのことらしい) が、 私はこれが直木賞で良いのではないかと思っています。今だからこそ読むべき一番の作品だろうと。

なぜ、自分は正しいと思い込んでいるのか。
なぜ、面識のない人を追い詰めたがるのか。
なぜ、匿名性が保たれると信じきっているのか。
なぜ、ネット空間では人格が変わってしまうのか。
なぜ、こんなにも息苦しいのか - 。

今日もSNS上では仮面をつけた誰かが、考えの違う人に牙を剝き、古いものを小バカにし、信じたい情報のみを掻き集め、陰謀論を撒き散らし、虚報で悪銭を稼いでいる -

皆が持続可能な社会を目指しているというのに、社会は相変わらず情報の無駄には無頓着だ。生産と消費を繰り返す浮かれた言葉の洪水に、現代人は頼りなく流されている。(以下略)

・実社会では両脇に追いやられるような極端な考えを持つ人が、ネットの世界ではなぜか花道を歩いている。
・小さじ一杯の具体性と断定的な言葉を使うユーザーのコメントに、社会経験豊かな大人がいとも簡単に騙される。
・自分に近しい者には寛大なのに、遠くにいる人のルール違反には異常に腹を立てる。
・「いじめは許せない」 と憤る人が、平然とネットリンチに加わっている。
・テクノロジーが 「短時間でスカッとする」 「手っ取り早く褒めてもらえる」 システムを次々につくり出している。

情報技術のアシスト機能に身を預け、心地よさと引き換えに思考時間を差し出す現代に書くべき小説とは何か。メモを整理する中で、私は 「事実と実在の軽視」 「匿名性と有名性」 の二つを軸にして作品を書くことに決めた。【『踊りつかれて』執筆によせたエッセイ (著:塩田武士) より抜粋/順不同 】

※(今の時代の) ネット社会が抱える闇に真っ向から挑んだ意欲的かつ画期的な作品。日ごろネットに親しむ誰もがドキッとし、(本文中の) “加害者“ に似た行為に多少なりとも身に覚えがある人なら、 身悶え、震えあがるかも知れません。男の行為は責められもするのでしょうが、正直、胸のすくような思いがします。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆塩田 武士
1979年兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。

作品 「盤上のアルファ」「女神のタクト」「崩壊」「拳に聞け! 」「罪の声」「歪んだ波紋」「朱色の化身」「存在のすべてを」他多数

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