『地面師たち アノニマス』(新庄耕)_書評という名の読書感想文

『地面師たち アノニマス』新庄 耕 集英社文庫 2024年11月25日 第1刷

100億円という前代未聞の不動産詐欺を成し遂げた彼らが地面師になるまで 前日譚全7編

こうして彼らは、地面師になった。Netflixドラマ原作のスピンオフ短編集

100億円という前代未聞の不動産詐欺を成し遂げた彼らが地面師になるまでを描く、それぞれの前日譚 - 。司法書士歴20年の後藤は、一人娘の塾代に困るほど、薄給に喘いでいた。そんな中、山中と名乗る実業家から300万円で不正への加担を依頼される。喉から手が出るほど欲しい金額だが、事務所の所長を裏切れないと拒否。だが、事態は一変し!? (「ランチビール」) など、スピンオフ短編、全7編収録。(集英社文庫)

原作小説は2019年12月、集英社から刊行。第23回大藪春彦賞候補になりました。読んだのはずいぶん前で詳細は忘れましたが、メチャメチャ面白かったことだけは覚えています。それとメインキャラクターのハリソン山中という男。こいつ、タダモノではありません。キモさ全開の男の様子を、豊川悦司はどう演じているのでしょう? それだけでも見ものだと思います。

◎目次

街の光  (刑事)
ランチビール 後 藤 (法律屋)
剃 髪 川井菜摘 (尼 僧)
ユースフル・デイズ 長 井 (ニンベン師) ※ニンベン師:身分証や公的証書を偽造する仕事人
戦 場 青 柳 (石洋ハウス) 
ルイビトン 竹 下 (図面師)
天賦の仮面 麗 子 (手配師)

原作 『地面師たち』 の概要はこうです。(以下はTVドラマ演出家であり映画監督でもある大根仁氏の解説からの抜粋です)

小説を一気に読み終えたのは久しぶりのことだった。無論、最初は自分が知っている “積水ハウス地面師詐欺事件” と照らし合わせながら読み進めたが、すぐに新庄氏が紡ぐ “実際の事件を元にしたフィクション” の世界に飲み込まれていった。

導入は 「地面師詐欺とはなんぞや? 」 を読者にわかりやすく具体的に説明するパートから始まり、拓海という実際の地面師グループには存在しなかったであろうキャラクターを主人公として浮き上がらせ、徐々に主犯格・ハリソン山中を中心に地面師グループメンバーのキャラクターを紹介してゆく集団犯罪モノのお手本のような序盤構成。

クライムノベルには欠かせぬ “チェイサー(追う者)” として老刑事・辰の存在を匂わせながらも、拓海の過去を描くことでヒューマンドラマのボトム部分を構築し、更には拓海が地面師として一人前になってゆく過程を歪んだ成長物語として見せる。

特筆すべきは主犯格・ハリソン山中のキャラクター造形だ。元暴力団員という最低限のプロフィールだけは漂わせているが、インテリジェンスとマゾヒズムを共存させ、この世のどこにも所属せず、リーガルとイリーガルの概念すら感じさせない、それでいて犯罪集団のリーダーたりえるカリスマ性を持つハリソンは、これまでフィクションの世界で登場することのなかった、全く新しいヒール像と言っても過言ではないだろう。

個人的には、この物語を転がす両輪は拓海だが、エンジンそのものはハリソン山中と捉えた。これはまったくの邪推だが、新庄氏にとって主人公・拓海という存在は、ハリソン同様に “使い捨て” であり、既にハリソンを中心とした新たな物語を構想しているのではないだろうか? 無論、それはエピローグを読めば誰もが想像できることだが、私も含めて本書を読み終えた読者諸氏も、ハリソンの更なる、魔力溢れる悪行を望んでいるのではないだろうか?

※[積水ハウス地面師詐欺事件] 2017年、東京・五反田の廃旅館 「海喜館」 の土地を積水ハウスが購入した後に詐欺と判明し、55億5千万円という巨額の被害に遭ったとされる事件。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆新庄 耕
1983年京都府京都市生まれ。
慶応義塾大学環境情報学部卒業。

作品 「狭小邸宅」「カトク 過重労働撲滅特別対策班」「サーラレーオ」「ニューカルマ」等

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