『野火の夜/木部美智子シリーズ』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『野火の夜/木部美智子シリーズ』望月 諒子 新潮文庫 2025年10月1日 発行

推理小説史上にそびえ立つ新たな金字塔 16万部突破!!蟻の棲み家を超える最高傑作

血染めの旧紙幣と25年前の殺人の謎・・・・・・・

関東各地の自動販売機から、血のついた五千円札が相次いで発見された。同じ頃、増水した川で原発取材をしてきたジャーナリストが死亡する。事故なのか、他殺なのか・・・・・・・フリーライターの木部美智子が取材を進めると、二つの事件に思わぬつながりが見えてくる。その先に待ち受けていたのは - 忘れられた過去と幾層にも重なった謎を解きほぐし、百年に及ぶ人間の業を描いたシリーズ最高傑作。(新潮文庫)

ある範囲 (の作家) に限って言うと、迷わず買ってしまうのは、たとえば、まさきとしか、河﨑秋子、櫛木理宇、塩田武士、誉田哲也、染井為人、そして望月諒子 - だったりします。著者の、特にこのシリーズはお勧めで、読めば十中八九 「木部美智子」 の虜になるに違いありません。

終始クールな上に、そのしつこさたるや、半端ではありません。やると決めたら何があろうと最後までやり通す - その粘り強く徹底した仕事ぶりは、他の追随を許しません。地道な取材を重ねることで、難解不落な事件の謎をみごと暴いてみせます。

解説にある以下の文章を紹介したいと思います。小説の内容が書いてあるわけではありません。美智子の、事件に向かう 「姿勢」 が書いてあります。読んで何かを感じ取っていただければ幸いです。

腐葉土』 の第一章には次のような文章がある。

事件は、どんな事件でも、それを引き起こした人の人生の上でしか起こり得ない、いわば 「一品もの」 というべき要素の上にある。美智子は長い間そう思ってきた。

人間に備わった 「業」 はいろんな形で人を悩ます。悩みながら人は生きる。業というのは自己への執着だと思う。結局人間は自分に執着することで生きている。義理も、人情も、愛情も、犠牲も、結局は自己確認だ。そんな業がほどけないほどに絡まった時、人は事件を起こす。だから事件には人の業が生い茂る夏の雑草のようにびっしりと張りついている。見たこともない密集の仕方、見たことのない曲がり方。そこには一生懸命生きるのと同じぐらい一生懸命に人を殺す人間の姿があったものだ。いかに事件が生まれたかをひもとくことは、その時そこにいた人々がいかに生きたかを見ることだった。

そして、続けて、

これは美智子の姿勢であると同時に、著者が何故ミステリを書くのかという理由でもあるのだろう。見たこともない密集の仕方、見たことのない曲がり方をした人間模様が織り成す一品もの の事件。それを描くことが著者の目標であり、本書ではそうした姿勢がシリーズ中最大級のスケールで示されている。

※この物語において、特筆すべきは第三章の冒頭で明かされる、ある登場人物が書いた日記の存在です。事件の発生時とはまるで違う時代の、まるで違う世界のことが詳細に綴られています。そんな日記があり、中に書かれたそんな日々があったとは、近くで暮らすほとんど誰もが知る由もありません。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆望月 諒子
1959年愛媛県生まれ。兵庫県神戸市在住。
銀行勤務を経て、学習塾を経営。

作品 「神の手」「腐葉土」「大絵画展」「田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察」「哄う北斎」「蟻の棲み家」「殺人者」「呪い人形」「最後の記憶」他多数

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