『嘘つきジェンガ』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
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『嘘つきジェンガ』(辻村深月), 作家別(た行), 書評(あ行), 辻村深月
『嘘つきジェンガ』辻村 深月 文春文庫 2025年11月10日 第1刷
直木賞受賞作 『鍵のない夢を見る』 と連なる、圧巻の辻村ワールド!

欲しかったのは、お金? 称賛? それとも、幸せ?
大学進学で上京したのに、コロナ禍ですべてが狂った。孤独感が募るなか、割りのよいバイトに誘われる (「2020年のロマンス詐欺」)。優秀な長男に比べ苦戦している次男の中学受験。“特別な事前受験“ があると囁かれた母は (「五年目の受験詐欺」)。騙す者と騙される者の切実な葛藤と後悔を描く、スリリングな短篇集。解説・一穂ミチ (文春文庫)
三話共にあるといえばよくある話で、特に第一話・第二話については、誰がどんな状況で被害者になるとも限りません。まるで疑わずにいたことが、いつの間にか取り返しのつかないことになり、未来が反転したようで、一瞬ですが思います。人生終わったと。
逆に、第三話は自分が確信犯、つまり加害者だった場合。よくよく考えると、つらいのはこっちの方かも知れません。知った上でつく嘘は、その後ずっと尾を引きます。現状を維持するためには、嘘をつき続けなければなりません。そのうち嘘が本当になり、「本気で」 嘘をつくようになります。
目次
2020年のロマンス詐欺
五年目の受験詐欺
あの人のサロン詐欺
ジェンガ、というゲームに苦手意識がある。ゴール、上がり、得点などの設定はなく、誰かがしくじって崩れることでしか終われないルールは意地が悪いし達成感に欠けると思っていた。ジェンガはスワヒリ語で 「組み立てる」 という意味の 「クジェンガ」 に由来する。危ういものを、危うさを承知で上へ上へと積んでいく。身体が縮んで、ぐらぐら揺れる積み木のてっぺんに立ったら、それは目のくらむような眺めだろう。
本書には、図らずも脆く稚拙な嘘を重ね、あるいは嘘に巻き込まれた 「私たち」 の物語が収録されている。
「私たち」 の中にはロマンス詐欺にも受験詐欺にも関わっていない、有名人のなりすましなんて考えたことすらありません、という人も含まれている。出来事ではなく、そこに鮮やかに描き込まれた感情を確かに知っているから。「今までただの一度も嘘をついたことがない」 なんて真顔で言う人がいたら、とんでもなく厚顔無恥な嘘つきだと思うでしょう。誰だって大小の嘘をつくし、他人もそうだという認識で生きている。テスト勉強してないとか、記憶にございませんとか、週明けには原稿送りますとか。
やっちまった、と後悔しても後戻りできない嘘もある。なら、本当にしてしまうしかない。嘘で嘘を補強し、お粗末な足場を作って必死に手を伸ばす。頭上には本当であってほしい自分、本当であってほしい人生の幻が浮かんでいる。
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彼らが溺れた嘘は、側から見れば滑稽で哀れですらある。けれどぐらつく虚構の上で流した汗のつめたさを、私たちは知っている。そんなつもりじゃなかった。足元に明確なラインなど見えなかった。でも気づけば一線を越え、嘘の上にいる - 。
辻村深月も、もちろん知っている。だから作者の筆は冷徹なほど克明ではあるけれど、人の弱さを見下したりはしない。誰のどんな感情も嗤うことなく、ただ 「心の中にあるもの」 としてフラットな目線で描く。私を含めた多くの読者は、辻村深月の眼差しのフラットさに絶大な信頼を置いていると思う。だから、身に覚えのあるずるさや愚かさを正確に言語化されて時にふるえ、いたたまれなくても、どこかで安心して読み進める自分がいる。結末がどうであれ、この人に、この物語に連れて行ってもらえば大丈夫、といつも思い、実際、裏切られたことはない。(解説より)
※詐欺の在り様事態も面白いのですが、読ませどころは、おそらくその 「始末の仕方」 にあるのだと思います。三話それぞれに 「人生終わった」 と思うような事態を招きはしますが、事件の当事者たちは (当たり前ですが) 早々には死にません。逆転サヨナラホームランとまではいきませんが、意外と悪くない結末を迎えることとなります。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
作品 「冷たい校舎の時は止まる」「太陽の坐る場所」「鍵のない夢を見る」「朝が来る」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」「かがみの孤城」「ツナグ」「傲慢と善良」「琥珀の夏」「闇祓 Yami-Hara」他多数
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