『黒い絵』(原田マハ)_書評という名の読書感想文
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『黒い絵』(原田マハ), 作家別(は行), 原田マハ, 書評(か行)
『黒い絵』原田 マハ 講談社文庫 2025年11月14日 第1刷発行
ついに明かされる原田マハのもう一つの顔、禁断のノワール小説!

闇の中には、エロスも殺意も永遠も絶望も沈んでいる。
高校生の真央には友だちも彼氏もなく、クラスではいつもいじめられている。そんな真央が安息を得られるのは、自室の押入れの中。真っ暗にして入ると、「海の底」 に沈んでいるみたいなのだ。偶然再会した幼なじみの流花を、真央はその深い隠微な世界へと誘った・・・・・・・。(「深海魚」)。全六編、衝撃のノワール小説集! (講談社文庫)
私の知る限り、(著者の作品で) こんなの読んだことがありません。こんなことは (こんなふうには) 書かない人だと思っていました。
黒い絵 Les Tableaux Noirs/目次
深海魚 Secret Sanctuary
楽園の破片 A Piece of Paradise
指 Touch
キアーラ Chiara
オフィーリア Ophelia
向日葵奇譚 Strange Sunflower
原田マハ氏の小説は、誰もが知るような名画に、通常とは違った角度から光を当てて見せてくれる。一枚の絵画に対する膨大な知識と愛から生まれたフィクションには、毎回心を掴まれてきた。この短編集も、ほとんどが美術品に関わる人々を主人公にしているが、今までの作品とはかなりテイストが違う。不安、嫉妬、執着、恐怖・・・・・・・。絵画や仏像や壁画をめぐって、「黒い」 感情を抱く登場人物たちが描かれる。
「指」 の主人公は、大学院で日本美術史を研究している女性。年上で肩書きがよく家庭のある男とつきあうのが趣味で、現在は所属する研究室の指導者と不倫をしているが、いろいろな意味で満足はしていない。奈良・平安時代の彫刻を専門とする主人公は、彼を誘って奈良の室生寺に来ている。釈迦如来坐像の美しい中指に刺激された後、旅館の食堂で働く青年の若鮎のような指に惹かれてしまう。満たされない欲望が見せる一瞬の夢のようなものが、映像を見せられているようで、エロティックでリアルだ。(以下略)
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美術作品とはなんだろう、と改めて考えている。魂を込めて創作する者がいて、それを支える者、後世に遺そうとする者がいる。創られてから長い時間が経っても、その作品は愛され、欲望を刺激し、大切に保存される。鑑賞する人間は、創作した者の人生や歴史に思いを馳せ、自由に想像を膨らませる。長い年月の間に生まれる思いは、直球の情熱や愛情だけであるはずはない。
表に出せない欲望、人に言えない秘密、作品の世界に取り入れられてしまうような恐怖・・・・・・・。その生々しさと、登場する美術作品の迫力にゾクッとしながらも、目を逸らすことができない。(高頭佐和子 NEWS 本の雑誌 【今週はこれを読め! エンタメ編】 より抜粋 )
「指」 では、いきなりのこんな描写にドキッとします。主人公の女性が、現在不倫中のある男性の 「指」 について、その短さゆえに、常に満たされない思いでいるのを憂いています。
短い指は、私をいらいらさせる。いつだって、私の望んでいるようには動かない。
男って、指なり舌なりで、とにかく芯を搔き回せば女は気持ちよがる、と思っているんだろうか。少なくとも、私がいままでつきあってきた男たちはそうだった。性器でなくたって、耳たぶでも乳首でも足の指でも、先っぽこそ大切に、ていねいに扱ってほしいのに。できるだけ野蛮に、乱暴にされることを女は望んでいる、と彼らは全員、誤解しているようだった。気持ちのいいふりをする、女のほうにも問題はあるんだろうけど。
横顔に、疲れが滲んでいる。ゆうべ、講義を終えてから、最終の新幹線で京都まで来た。木屋町で飲んで、駅近くのホテルに泊まった。
セックスは、寝る前に軽く一回だけ。イッたふりをした。
短い指の短い愛撫に、ちっとも満足しなかったのに。
どうです、これ? ここだけ読んだら、まるでその手の雑誌のエロ小説ではないですか。びっくりします。但しです。この短い指と対になって語られているのが奈良の室生寺にある釈迦如来坐像の中指で、如来の両手の中指は、他の指より微かに持ち上がっています。想像してみてください。不謹慎ではありますが、その長く美しい中指の、なんとエロティックなことでしょう。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆原田 マハ 1962年東京都小平市生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。
作品 「カフーを待ちわびて」「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」「あなたは、誰かの大切な人」「さいはての彼女」「まぐだら屋のマリア」「サロメ」「たゆたえども沈まず」他多数
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