『踏切の幽霊』(高野和明)_書評という名の読書感想文

『踏切の幽霊』高野 和明 文春文庫 2025年11月10日 第1刷

いつまでも深く胸に残る哀切な幽霊譚 第169回直木賞候補作

あの踏切で、何かが起こっている - 。相次ぐ列車の非常停止と、線路上に浮かぶ人影。東京・下北沢で報告された心霊現象に、一人の雑誌記者が挑む。

都会の片隅にある踏切で撮影された、一枚の心霊写真。同じ踏切では、列車の非常停止が相次いでいた。雑誌記者の松田は、読者からの投稿をもとに心霊ネタの取材に乗り出すが、やがて彼の調査は幽霊事件にまつわる思わぬ真実に辿り着く。1994年冬、東京・下北沢で起こった怪異の全貌を描き、読む者に慄くような感動をもたらす幽霊小説の決定版! (文春文庫)

初読。さすが直木賞候補といった感じ。思ったより何倍も面白く、かつ結末に涙しました。

長い髪の女の “幽霊“ は、なぜその踏切に現れるのか。その正体は・・・・? 信じるも信じないもあなた次第ですが、少なくともこの物語の主人公の松田には、その存在を “信じたい“ と願う理由がありました。最初、彼はそれに気づかずにいます。 

本編は一九九四年一二月から始まる。五四歳の松田法夫は、東京の出版社で働く女性誌の記者だ。以前は全国紙の社会部記者としてバリバリ仕事をしていたが、二年前に最愛の妻を亡くしたことがきっかけで、今では生活のためだけに働いていた。

ある日編集長から呼び出され、心霊ネタの取材を発注される。二人の読者から投稿された8ミリ映画とフィルムカメラの写真には、下北沢三号踏切の宙空に浮かぶぼやけた女の姿が写っていた。投稿者と会って話を聞き、調べて来い - 。

しかし、心霊現象の謎を追う松田は、幽霊という存在そのものに疑いがあった。〈この世に幽霊などいないのは、松田には分かり切っていた。彼自身が、ずっと妻の魂を探してきたからだ〉。この二年間で一度も、妻は松田の前に現れることはなかった。

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本作に登場する幽霊は、怖い。主人公の妄想ではなく、実在を感じさせるものとして描かれているからこそ、なお怖い。しかし、怖さという感情は、この物語にとって一要素にすぎない。

「ホラーは怖がらせることを最優先にするジャンルだと思うのですが、この作品では怖がらせることを最優先にはしませんでした。怖さを描くのは二番目の目標であって、一番大事にしたのは、このストーリーをいかに面白く語っていくか、でした」

本作は、ホラーではない。何らかの事情によって甦った死者と生者が織りなす感情の交感の物語 - ゴースト・ストーリーなのだ。(以下略/web 「小説丸」 より抜粋)

※私を生んだ母親は、私が三歳の時に亡くなっています。顔も、声も知りません。ですから写真を見ても、本当にそんな人がいたという実感がありません。もしも叶うなら、それが霞か影のようなものであったとしても、会って話しかけてみたいと思います。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆高野 和明
1964年東京都生まれ。ロサンゼルス・シティー・カレッジ映画科中退。

作品 「13階段」「ジェノサイド」「グレイヴディッガー」「K・Nの悲劇」「幽霊人命救助隊」「6時間後に君は死ぬ」「犯人と二人きり」他多数

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