『真珠とダイヤモンド 上下』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
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『真珠とダイヤモンド 上下』(桐野夏生), 作家別(か行), 書評(さ行), 桐野夏生
『真珠とダイヤモンド 上下』桐野 夏生 朝日文庫 2026年1月25日 発行
バブルに呑まれた女たちの “青春残酷物語“ 実態なき熱狂の裏側を抉る傑作長編!

「証券会社は男の世界ばい。女の出る幕はなかとよ」
1986年春、福岡。証券会社に入社した小島佳那は、美貌と強い意志、群れない性格ゆえ先輩女性社員たちから冷遇される。そんな佳那を陰ながら支援し、距離を縮めていく伊東水矢子。二人の同期で野心家の営業マン望月は、姉の元恋人の須藤医師から契約を取った佳那に急接近し、バブル景気に世の中が浮足立つ中、手段を選ばずのし上がっていく。(上巻/朝日文庫)
当時、私と同じ職場の一歳上の先輩は、民営化なったNTTの公開株の売り出しに見事当選し、誰もが羨む株を手に入れました。仕事で懇意にしている営業マンの誘いに乗ったのは、日頃のつきあいを考えてのことで、買った株がどれほどの値打ちなのかは、正直よくわからなかったそうです。というのも株を買うのは初めてで、買った途端にあんなに値上がりするとは思いもしなかったと。日を追って上がる株価に “恐怖“ を感じ、さらに上がる手前で売ってしまったのですが、それでもその時の儲けで、なんと軽の新車が一台買えたそうで、えらく喜んでいたのを思い出しました。日経平均が4万円になろうかという、まさにバブル絶頂期のことでした。
バブルの30年後 - コロナ禍の年末という場面から、物語ははじまる。
そして、主人公の夢のなかへ導かれるようにバブル期へタイムスリップ。まだ携帯電話もなかったころ、福岡の中堅証券会社に就職した若者3人。けして裕福な育ちでなく、なんの後ろ盾もない本作の主役たちは、戦時下の日本軍のごとき理不尽で粗暴な 「男の職場」 で出会う。そこに女性はいるにはいるが、見下された存在でしかない。
大人たちにいいように使われながら、あるときは波に乗り、周囲に妬まれ、あるときは嵌められ、貶められ、使い減りすれば蹴とばされ、それでもなお這い上がろうとする - 野心家の望月昭平と、彼の戦友で最愛の妻となる佳那、佳那を想い慕う孤独な水矢子。そして彼らをとりまく濃いキャスト・・・・・・・不倫する上司とお局、大病院の二代目、ゲイバーのママ、ヤクザとその情婦、銀行屋、仕手筋、占い師、ホストらがぞくぞく登場して、パワハラ、セクハラ、イジメ、法令違反・・・・・・・なんでもありの青春残酷ストーリー。
バブルの結末を知っている我々はハラハラしつつ、黒い人脈と金の威力でのし上がっていく望月らとともに、ブラックワールドの渦へ猛スピードで巻き込まれ、桐野 (夏生) の見事な筆でまたたくまにラストまで運ばれる。(解説より)
※私はこの頃のことをよく知っています。というか、その渦中にいました。断っておきますが、真珠は清く滑らかな真珠ではなく、ダイヤモンドは光り輝いてなどいません。文字通りなら、桐野夏生がタイトルになどするはずはありません。(タイトルの意味は最後の方でわかります。特に下巻、物語は怒濤のように進みます)
後先になりますが、解説の冒頭の、こんな文章を載せておこうと思います。
かつて 〈バブル〉 とよばれた時代が、日本にあった。
1630年代オランダのチューリップバブルにはじまって、これまで世界のあちこちでバブルは起きているが、わが国の場合は1980年代の後半に、バブルのビッグウェイブがやってきた。
発生から崩壊まで、諸説あるがだいたい1986年~91年、〈第二の敗戦〉 とも言われたこの間の転落劇を、桐野夏生が書いたとあらば、なんとしても読まずにおれない。
この本を読んでみてください係数 85/100

「金さえあれば、何でも手に入ると思っていた」 狂い出す若者たちの運命。バブルとは何だったのか? 欲、たぎる地で迎える圧巻のクライマックス
時代はバブル全盛期に。東京本社に栄転が決まった夫とともに上京した佳那は、ヤクザの愛人・美蘭のてほどきで瞬く間に贅沢に染まっていく。同じく東京にやってきた水矢子は、不首尾に終わった受験の余波で流転と波乱の生活がスタートする。やがてバブルに陰りが見え始め、静かに運命が狂い出す・・・・・・・。(下巻/朝日文庫)
◆桐野 夏生
1951年石川県金沢市生まれ。
成蹊大学法学部卒業。
作品 「OUT」「グロテスク」「錆びる心」「夜また夜の深い夜」「奴隷小説」「バラカ」「猿の見る夢」「夜の谷を行く」「路上のX」「日没」「砂に埋もれる犬」「燕は戻ってこない」他多数
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