『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月25日 初版発行

彼女 (モンスター) はハイヒールの音とともにやって来る。めくるめく邪悪に戦慄が走るノワール・サスペンス!

あ、だめだ。この女、まともじゃない。

悩みや欲望こそが彼女のターゲット - その女は、ハイヒールの音をコツコツ響かせ、やって来る - 。夫のDVと、思うようにいかない育児に悩む主婦・ユリは、レストランで目が合った精悍な男性店員・真崎と不倫関係に陥る。街中で偶然すれ違った彼の母は、大輪の花のような女性だった。しかしその日以降、ユリの周りのあらゆる歯車が狂い始め・・・・。父の暴力、同級生からのいじめ、マインドコントロール。“彼女“ からは誰も逃げられない。戦慄のノワール・サスペンス! (角川文庫)

女の企みの 「非道さ」 「容赦のなさ」 は尋常ではありません。偶然を装い、しかし裏では用意周到に、狙った獲物を地獄へ落とします。理由はありません。面白そうだから、苦しむ様子が見たいから。ただそれだけでした。狙われたのはユリや若菜ですが、彼女たちはまさか自分が 「嵌められている」 とは気付きもしません。

本書は、2022年10月に角川書店より刊行された単行本 『悪と無垢』 を改題・改稿のうえ、文庫化したものです。その 『悪と無垢』 について、以前 「ダ・ヴィンチweb」 に掲載されたのが以下のような文章で、今回の主人公である “彼女“ をよりイメージしやすいのではないかと思い、抜粋して紹介します。

- なにをしても一切罪悪感を抱かない人がいたとしたら - 。

小説 『悪と無垢』 で描かれるのは、まさにそういったひとりの女性の姿だ。彼女は他人を陥れ、次々に不幸へと突き落としていく。しかも、どこまでも無邪気に。まるで退屈しのぎをしているようで、だからこそ明確な悪意を持つ人の何倍もたちが悪く、恐ろしい。

「奈落の踊り場」 と題された章の主人公は、生きることに疲れ切った主婦・ユリ。(略) ユリはあるとき、たまたま寄ったイタリアンレストランで運命的な出会いを果たす。相手は真崎浩之。レストランの本社で働く、責任ある立場の男だった。想定外のハプニングに見舞われたユリは、どこまでも紳士的でやさしい真崎に恋をしてしまう。彼女がその恋に溺れていくのは、あっという間だった。

ところが、事態は急転直下する。秘密の恋心を育み、将来さえも語り合ったはずの真崎が、姿を消すのだ。しかもどうやら名前も仕事も偽っていたらしい。そうしてユリは、すべてを失ってしまう。真崎だけでなく、夫も息子も失い、彼女のもとにはなにも残らない。

ここまでは不倫を描く物語として、王道的な展開かもしれない。ただし、著者の一木さんはそこにとんでもないスパイスを加えてみせる。それは、本作の中心となるひとりの女性だ。彼女は罪悪感を抱かずに他人を欺き、不幸を生んでいく。その存在の恐ろしさに気づいたとき、“悪い男に騙された主婦“ というユリの物語が、違う表情を見せはじめる。そしてそれは、想像以上に怖ろしいものだ。(以下略)

※「まともではない」 人物がする 「まともではない」 事ほど、怖いものはありません。狙った相手が悩めば悩むほど、苦しめば苦しむほど仕掛けた当人は満足し、次の獲物を探します。なぜそんなことを?  答えは - たのしいからに決まっているではないですか。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆一木 けい 

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒業。2016年 「西国疾走少女」 で 「女による女のためのR-18文学賞」 読者賞を受賞。受賞作を含む連作短編集 『1ミリの後悔もない、はずがない』 は、デビュー作にして大きな話題となる。他に 「愛を知らない」 「全部ゆるせたらいいのに」 「9月9日9時9分」「彼女がそれも愛と呼ぶなら」他多数

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