『令和元年の人生ゲーム』(麻布競馬場)_書評という名の読書感想文

『令和元年の人生ゲーム』麻布競馬場 文春文庫 2026年3月10日 第1刷

タワマン文学の著者が贈る

今の若者の空疎感を描き切って、イチオシだった林真理子
もっとも時代の今と、若者世代のリアルを見つめた小説高村薫
現代のプロレタリア小説が爆誕した三浦しをん  (第171回直木賞選考会より)

正解が失われた時代の僕たちの絶望と希望

有名私大の 「意識高い系」 ビジネスサークルで起業を目指す “僕“。メガベンチャーで 「圧倒的成長」 を志す “私“。- 平成から令和という価値観のパラダイムシフトのさなかに社会に飛び込み、不確かな人生ゲームに翻弄される若者の寄る辺なさを描いてZ世代を熱狂させ、直木賞選考会でも台風の目となった不世出の傑作。(文春文庫)

CONTENTS
第1話 吉原さんと沼田さん  ※慶應の 「意識高い系」 ビジコンサークル
第2話 ありふれた愛からひとり走り去って  ※キラキラベンチャーで圧倒的成長
第3話 初恋にひとり取り残されて  ※ソーシャルグッドなZ世代シェアーハウス
第4話 吉原さんと沼田さんⅡ  ※迷走中! 高円寺の老舗銭湯

WEB本の雑誌今週はこれを読め! エンタメ編より

「麻布競馬場」 と聞いて、「え! 港区に競馬場ができるの? 」 と驚いてしまった方。著者は、Twitterでタワマン小説を書いてたら話題になって、書籍化されたら驚くほど売れた覆面小説家で……..と聞いただけで、「あー、そういうのはいらん」 と思ってしまった方。そんな皆さんにも、ぜひ手にとってみていただきたい小説だ。

Z世代と聞くと 「ハラスメントって言われたらどうしよう」 とか、「突然辞めますって言われたらどうしよう」 とか、ビビりがちな昭和生まれたち (←私ここ) とも、シビアに描かれている登場人物たちと同じZ世代の若者たちとも、忌憚ない感想を語り合いたくなる一冊でもある。

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どの舞台も、キラキラしている。彼らの日常をSNSに投稿したら、きっとたくさんの好意的なコメントがつくのだろう。自分の意志と能力でその眩しい場所に辿り着いたはずの彼らだが、次第に違和感を感じるようになる。そのきっかけの一つとなるのが、沼田という男だ。沼田は、どこにいても場の空気に合わないニヤニヤとした笑いを浮かべ、周囲を凍らせる発言をする。

イグナイトでは熱いスピーチをするサークルの代表を 「不真面目なやつ」 と意地悪く評価し、パーソンズでは 「クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって皇居ランでもやりたい」 と同期の前で宣言し、クロスポイントでは起業に憧れる学生の前で 「サラリーマンは適当にサボりつつ働いていれば毎月決まった額のお金が貰える」 と無気力に言い放つ。それでいて、高い能力や洞察力を発揮して周囲に一目置かれる存在となるのだが……..。(以下略/文=高頭佐和子)

はじめ、主役は 「吉原さん」 だとばかり思っていたのですが、実は 「沼田さん」 こそがキーパーソンで、沼田さんは4話全部に登場します。舞台はバラバラですが、なぜか、そこにはいつも沼田さんがいます。頼りにされ、期待に応えもするのですが、実のところ、沼田さんが何を考えているのかはよくわかりません。もしも沼田さんのような人物が同僚や先輩にいたとしたら、あなたは何とするでしょう? 彼を、どう評価するのでしょうか。

(高頭さんの締めの文章)

価値観を、否定し合うところから始めたくはない。気持ちはわかるよと、簡単に言いたくもない。そんなことをモヤモヤと思いながら読んだ最終話の舞台は、老舗銭湯である。高齢者と若者が交錯する場所で起きる強烈な騒動は、変わっていく世の中でいろんなことを迷う私に、容赦なくグサグサッと刺さってくるものだった。ここにも、沼田は登場する。彼がそこでどうしているか、ぜひ見届けていただきたい。

※この本の前に、できればデビュー作 『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 を読んでみることをおススメします。著者の人となりがとてもよくわかる一冊で - 麻布競馬場などというふざけたペンネームではありますが、地方から東京へ出てきた若者が何を思い、何を感じて生きていたのか。見えない未来を探りつつもがく様子が、手に取るようにわかります。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆麻布競馬場
1991年生まれ。慶應義塾大学卒業。

作品 2021年からTwitterに投稿していた小説が 「タワマン文学」 として話題になる。22年、ショートストーリー集 『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』 でデビュー。24年、『令和元年の人生ゲーム』 で第171回直木三十五賞候補。

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