『黒 石 (ヘイシ) 新宿鮫12』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文

『黒 石 (ヘイシ) 新宿鮫12』大沢 在昌 光文社文庫 2026年3月20日 初版1刷発行

新宿鮫シリーズ最悪の英雄、あらわる 黒石ヘイシ) - それは、誇り高き殺人者

次々と殺される犯罪ネットワークの幹部。背後に見え隠れする殺人指令。捜査を進める鮫島の先には、悪夢が待っていた。

「黒石 (ヘイシ)」- それは、誇り高き殺人者のコードネーム。犯罪ネットワーク 「金石 (ジンシ)」 の幹部が次々と殺害される。新宿署刑事・鮫島の捜査線上には、冷徹な利害関係や断ち切れない愛憎にもがく人々が現れては消えてゆく。やがて、市井にまぎれて殺人を繰り返す謎の男の姿が - 。「新宿鮫」 シリーズ史上最悪の英雄と鮫島が衝突するとき、何が起こるのか? (光文社文庫)

大沢在昌著 「新宿鮫」 シリーズのラインナップを紹介しましょう。毎回出るのを待ちかねて、夢中になって読みました。おそらく、二十代から三十代にかけてだったと思います。面白過ぎて、しばらくの間、他の 「警察小説」 を読まなくなりました。というか、読めなくなりました。

きっかけはNHKのドラマだったと思います。たしか、舘ひろしが 「鮫島」 でした。

新宿鮫1  新宿鮫
新宿鮫2  毒 猿
新宿鮫3  屍 蘭
新宿鮫4  無間人形
新宿鮫5  炎 蛹
新宿鮫6  氷 舞
新宿鮫7  灰 夜
新宿鮫8  風化水脈
新宿鮫9  狼 花
新宿鮫10 絆回廊  (若かりし頃、私が読んだのはここまで)

その後、

新宿鮫11 暗約領域
短編集   鮫島の貌  と出版され、本作に至っています。

物語の冒頭は、中国語で書かれた何かのメンバーに向けたメッセージではじまる。それは丁寧な口調だが、どこか強制への同意を求めるものだ。
そして暑い夜に鮫島の自宅の前で、彼をある男が待っている場面からストーリーは動きだす。男は、前作 『暗約領域』 で途中まで鮫島とコンビを組んでいた矢崎だった。

彼は公安のスパイだった。その身分が発覚した後、休職していた矢崎は、金石 (ジンシ) の幹部、高川のことで鮫島に協力を求めて現れたのだ。
金石を支配しようとするメンバーがいるといって怯える高川は、警察による保護を求めて、矢崎に接触してきた。

金石は中国残留孤児二世三世の互助会的な組織としてスタートしたが、ビジネスなどの情報を交換するうちに犯罪に特化した集団も含まれるようになっていた。カタギも犯罪者も、メンバーたちはみな、中国にも日本にも帰属意識を持たずむしろ国家を憎んでいる。

鮫島は第十作 『絆回廊』 以来、金石の犯罪者たちを追っていた。金石に命を狙われたこともあった。金石をよく知る鮫島に、矢崎は頼ったのだった。
鮫島は矢崎とともに高川と会う。高川は、金石を支配しようとしているものの名は “徐福“ といい、対立するものを “黒石“ と呼ばれる絶対の殺人者に排除させるという。一撃で頭蓋骨を陥没させて殺すという “黒石“ 。

自らの犯罪についての情報を隠しながら警察に保護を求める高川と、それを見抜いて情報を求める鮫島は対立する。
しかし、その間にもさらに金石のメンバーが殺されていく。鮫島たちは “徐福“ と “黒石“ の正体を求めて、捜査を進めていく - 。

ж

鮫島らの捜査を描く一方で、冒頭の4節から、別視点のひとり語りが挿入されていく。「ヒーローである自分」 とはじまり、ヒーローである自分を物語の中の存在であるかのように 「彼」 と呼ぶ。

独創的な自作の武器を携帯し、ヒーローの仕事をしているというこの人物こそ “黒石“ だ。
すべてを 「ヒーロー」 の自分の視点で見ている彼の 「現実」 は、彼だけのものだ。
藪は “黒石“ が殺した遺体に残された痕跡から類推される凶器について、〈鉄亜鈴 (てつあれい) だとすれば、それはもう趣味だ。プロとはいえない〉 〈おぞましい話ですが、人を殴り殺すのが趣味だということです。もしプロの殺し屋なら、もっと簡単で自分に危険が及ばない方法を用います。(中略) 鉄亜鈴、あるいはそれに近いものを凶器に用いているとすれば、本人が好んでいるとしか考えられません。〉 という。
そこが、これまでの他のシリーズ作品に登場する 「殺し屋」 たちと大きく違っている。(解説より)

※「鮫島」 の他にあと二人、私には大好きな刑事がいます。一人は高村薫の小説に登場する 「合田雄一郎」。もう一人が逢坂剛の百舌シリーズに登場する 「倉木尚武」 です。これは譲れません。よく読んだ頃から数十年経った今も変わらず、私にとって永遠のベスト3です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆大沢 在昌
1956年愛知県名古屋市生まれ。慶應義塾大学法学部中退。’79年 「感傷の街角」 で第1回小説推理新人賞を受賞しデビュー。’91年 『新宿鮫』 で第12回吉川英治文学新人賞と第44回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。’94年 『無間人形 新宿鮫Ⅳ』 で第110回直木賞、2004年 『パンドラ・アイランド』 で第17回柴田錬三郎賞、’06年 『狼花 新宿鮫Ⅸ』 で日本冒険小説協会大賞、’10年に第14回日本ミステリー文学大賞、’14年 『海と月の迷路』 で第48回吉川英治文学賞を受賞。’22年秋に紫綬褒章を受章。

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